住宅ローンを滞納した時に知っておくべき任意売却

頑張って手に入れた夢のマイホーム。家族の笑顔であったり社会的な信頼であったり、思い描いてきた幸せの基軸となる大きな買い物です。

しかし35年にわたる長期の住宅ローン期間には勤務先の業績が悪化して給与が下がってしまったり、病気の療養や親の介護のため会社を退職等の思いがけない原因で、住宅ローンの返済が困難になってしまうことがあります。

長い人生の中で、万が一このような状況に陥ってしまって売却する事になったとしても、「止まない雨」はなく、状況が好転した時には再度マイホームを手に入れることができます。

しかし、売却の方法やタイミングを誤ってしまうと状況が改善しても、なかなか新たにマイホームを手に入れられないことがあります。このようなリスクを最小限を抑えるために、住宅ローンが滞ったとき銀行が行う競売に関する説明と、競売を回避するために返済が苦しくなった時に知っておくべき任意売却をご紹介します。

まずは銀行の担当者に相談

35年の長期にわたる住宅ローンの返済期間中に返済が難しくなりそうな時もあります。そんな時は、まず銀行の担当者に状況を伝えて今後のことを相談しましょう。

一定期間の元金据え置きや返済期間の延長して月額返済額を減らすことができることで、滞納の悩みが解決できる可能性があるためです。

住宅ローンの滞納から競売で売却されてしまうまで

住宅ローンを滞納し続けてしまうと最終的には競売で強制的に売却されてしまいます。

競売は、事前に建物内部の確認が取れないことや、故障や欠陥があっても自己負担という理由から、問題のない物件でも売却基準価格は一般の取引価格より30~50%減額されてしまうため絶対に避けましょう。

例えば、住宅ローンの残債が3,000万円あり、一般取引市場の価格が3,300万円と仮定します。
一般市場で売却すると、住宅ローンを完済して販売諸経費を控除しても200万円が手元に残りますが、競売の売却基準価格で落札されてしまうと、手元にお金が残るどころか住宅ローンの完済もできず、690万~1,350万円の借金が残ったままになってしまいます。

メモ

【一般市場にて取引価格で売却】
住宅ローン完済+200万円の手元資金確保
(物件価格3,300万円-住宅ローン3,000万完済-売却諸経費約100万円)
【競売にて売却基準価格で売却】
住宅ローン残債690万~1,350万(手元には残らず…)

一般で売却する場合と競売で売却する場合、最大で1,550万円の差が出る可能性!

住宅ローン滞納から競売開始決定まで

住宅ローンの返済が滞ってしまうと銀行から催告書や督促状が届き、滞納期間が3~6か月になってくると銀行にマイホームを差し押さえられてしまいます。

これは住宅ローンの契約内容にある「期限の利益」を喪失したためです。期限の利益とは簡単に言うと分割払いのことを言います。期限の利益を喪失すると、銀行に対して保証会社が住宅ローンを肩代わりして支払います。これを「代位弁済」といいます。

これにより返済先は銀行から保証会社に代わり、住宅ローンの残債を保証会社へ一括で返済しなければなりません。これができない場合、保証会社は担保である不動産を競売にかけて回収するために差し押さえをして、物件を売却するために裁判所に対して競売の申立手続きを行います。

申立が受理されると、裁判所から所有者の元に「競売開始決定通知書」という書類が届き、競売の手続きが始まったことが知らされます。

この書類には事件番号が設定されているため、一大事に感じて不安を感じる方も少なくありませんが、事件番号≒整理番号だと読み替えて不安を取り除いて下さい。

競売開始決定から開札による買受人決定まで

競売開始決定後、裁判所は物件資料作成のために現地調査に来ます。そこで室内写真を撮られたり、住んでいる人や第三者への賃貸借の有無などの聞き取り調査が行われます。

現地調査が終わると、裁判所は競売入札者に向けた資料作成の準備に取り掛かり約3~4か月後で完成します。完成するとインターネットや新聞等で調査資料は公告されます。この資料は誰でも閲覧することができるので、近所の方や知人などに知られてしまう可能性があります。

資料が公告されてから約1か月後に1週間の入札期間を設けて購入希望者を募集します。
入札期間終了2週間後が開札日となり、最高額で入札した人が買受人として手続きが進んでいきます。

任意売却による競売回避は開札日の前日まで可能ですが、銀行によってはギリギリだと準備が間に合わないため任意売却を断られる事がありますので、余裕をもって入札期間開始前までに完了することが望ましいです。

メモ

住宅ローンを滞納してから競売で強制売却されるまでには、約12か月前後の猶予期間がある。
・この期間の前日までが競売を回避するために残された任意売却ができる期間である。
【滞納0ヶ月~3か月後】緊急度★★☆☆☆
催告書・督促状が届く

【滞納4か月~6か月後】緊急度★★★☆☆
期限の利益喪失・代位弁済により競売申立手続き

【滞納7か月~10か月後】 緊急度★★★★☆
競売開始決定・資料作成および現地調査

【滞納11か月~12か月後】緊急度★★★★★
期間入札開始

【滞納11ヶ月~12か月+2週間後】→この前日までが任意売却による競売取下の期限
開札により買受人の決定

任意売却とは

期限の利益を喪失して、一括返済するために不動産を売却することを決断しても、住宅ローン全額を返済できない限り売却することができません。

例えば、住宅ローンの残債が3,000万円あると仮定して、売却価格が3,000万円以上で残債を上回れば完済できるので売却できますが、売却価格が3,000万円以下でしか売れない場合は不足額を準備しなければならないため、準備できない場合は売りたくても売れないということがあります。

このようなときは、保証会社等の債権者から売却の合意を得ることで、不足分が準備できなくても売却することが可能になります。この売却方法を任意売却といいます。

保証会社は競売にかけて売却すると回収までに約1年の長い時間を待つことや、競売申立てに必要な100万円前後の費用を準備しなければなりませんが、任意売却だと回収時間を短縮できたり競売申立費用が必要なく所有者にも債権者にもメリットがある方法として推奨しています。

任意売却の8つのメリット

早い段階での解決が可能

競売だと売却までに約1年の長い期間がかかるのに対して、任意売却では売却を決断したら直ぐに取り掛かることができます。一般市場で売却活動を適正価格で行ったときに成約までの期間は約3か月~6か月です。早く売れることで遅延損害金を抑えられますので精神的にも金銭的にも大きなメリットになります。

一般市場の適正価格で売却が可能

SUUMOやHOMESといった有名な住宅ポータルサイトへの掲載や、不動産会社間の物件情報データベース(REINS)に登録して日本全国の不動産会社と連携して幅広く購入者を探すことができます。
また、早い段階で任意売却を決断することで販売期間に余裕ができるため、売り急ぐことなく好条件の購入者を探すことができます。

税金差し押さえや滞納金も精算

固定資産税や都市計画税等の税金やマンション管理費や修繕積立金、その他の銀行からの借入金等の住宅ローン以外の精算を売却代金から全部または一部を精算することができます。

購入者を選んで売却することが可能

親子や親族・知人や不動産投資家を選んで売却することができるため、協力を得て売却後に住み続けたり将来的に買い戻しを計画することができます。

プライバシーを守る事が可能

競売情報が裁判所の不動産競売物件情報サイトに掲載される時期は、滞納が始まって約10か月後です。これまでに任意売却が完了していれば情報が公告される事はありませんので、ご近所やお子様の学校関係者などに知られることなくプライバシーを守る事ができます。

引越時期や引渡し条件の希望が可能

子供の受験や仕事が繁忙期などで引越のタイミングに希望がある場合や、エアコンや照明などの備品を引越先で利用したいなどの引渡しの希望がある場合、引越日や引渡し条件を話し合って進めることができます。

引越費用が準備できる

引越作業にかかった費用の全部または一部を必要経費として売却代金から受け取る事ができます。

任意売却の費用は自己負担0円

任意売却が成立した場合にかかる費用の仲介手数料は販売必要経費として売却代金から負担されますので自己負担は0円で進める事ができます。

任意売却の費用

住宅ローンの保証会社(1番抵当権者)は住宅ローンの残債が完済になるまで売却代金から優先して回収することができます。例えば3,000万円の債権(残債)があり、競売で2,800万円で落札された場合は全額が保証会社に支払われます。

しかし任意売却では、販売にかかる費用を売却代金から負担することができます。保証会社はなぜ全額受け取ることができるのに、わざわざ費用を負担することを認めるのでしょうか?

それは費用負担してでも任意売却で進める方が高い価格で成約が見込め回収金額が競売より増えるためです。必要経費として認められる項目をまとめてみましたのでご紹介致します。

メモ

抵当権抹消費用
住宅ローンの抵当権等を抹消する費用で、設定件数により金額が代わります。税金等の差し押さえは職権で解除され費用は係りません。
・管理費滞納等
管理費や修繕積立金の未納分です。個人的に申し込んでいる駐車場や、駐輪場などの滞納分は認められない事があります。また5年を超過した滞納分は認められません。
・仲介手数料
売却が成約した際に係る不動産会社への手数料です。国土交通省の規定により取引価格の3%+6万円に消費税を合算した価格です。
引越費用
住んでいる物件から引っ越しをするときに係る費用の一部補助です。引越費用の準備ができる場合は返済に充当することが望ましいです。
・劣後債権・税金
競売では、優先債権者(一番抵当権者)の債権額を超えた場合に、劣後債権者へ配当されますが、任意売却では劣後債権者や税金等の租税へのハンコ代が認められます。
・破産財団組入額
破産申請して裁判所より破産管財人が選任された場合、任意売却により売却が成立すると破産財団への組入が必要になり、通常物件価格の3%になります。

一般的な項目はこの通りですが、この他に売却するために必要だった費用であれば控除される項目もあります。

任意売却と競売の比較

任意売却項目競売
所有者主導型主導権裁判所主導型
通常の販売活動同様のため、競売開始の情報は非開示プライバシー裁判所の不動産競売物件情報サイトでの活動のため、競売開始の情報は開示
活動範囲:通常の売却同様のため幅広い
活動期間:最長約10か月前後の十分な期間
販売活動活動範囲:裁判所の不動産競売物件情報サイト等による公告に限定
活動期間:入札期間1週間に制限された期間
一般市場の取引価格で高値売却が見込める売却価格競売減価により一般市場の取引価格から30%~50%減額
選べる
※親子や親族、知人などへの売却も可能
購入者の決定選べない
※落札者に決定
20万~30万程度もらえる引越費用原則なし
希望日を決められる明け渡し原則決められない

任意売却の流れ

1.専任媒介契約の締結
不動産会社(宅地建物取引業者)と購入者を探すための契約を締結します。

2.法令調査
権利関係の確認から建築基準の遵法調査やライフラインに至るまで不動産の詳細調査を行います。

3.住宅ローンの保証会社(債権者)や利害関係者への連絡
売却を進めるための価格や成約目標時期、物件の状況の打合せを行います。

4.販売活動開始
大手不動産ポータルサイトへの掲載、不動産会社間データベース(REINS)へ登録、オープンルーム等により幅広く販売活動を行い購入希望者を探します。

5.内覧希望者の案内対応
内覧希望者の案内対応に同行して所有者に代わって物件のアピールや説明を行います。

6.不動産売買契約の締結
重要事項説明書・不動産売買契約書等の契約書類作成から署名押印までを行います。

7.債権者及び利害関係者への報告
価格や時期などの報告・合意から返済方法や場所などの最終調整を行います。

8.代金決済及び所有権移転により競売取下
住宅ローンの返済と同時に競売取下に必要な書類を受け取り、司法書士が裁判所及び法務局で手続きを行います。

任意売却後の残債はどうなるのか?

任意売却で住宅ローンが完済できなかった場合、住宅ローンの残債はどうなるかと言えば、無くなる(免除)わけではなく、任意売却が終わった後も返済しなくてはなりません。

残債については債権者との話し合いで毎月の返済額を決めていきますが、そもそも任意売却することになったのは返済ができなくなったためなので、今まで通りの返済を求められても返済は困難です。

そのため収入の状況や生活の状況を十分に考慮した無理ない範囲で5,000円~30,000円位の範囲で決定されることが一般的です。

再度マイホームを購入するまでの道のり

任意売却した後、再度マイホームを住宅ローンで購入できるようになるまでは、金融機関の信用情報回復と、また任意売却で残債がある場合はローン残債を完済して0円にしなければなりません。

信用情報とはローン契約を申し込むときに必要な個人情報で、借入状況(貸付日や貸付金額等)・返済状況(入金日や完済日、滞納等)・取引事実(債務整理や破産申立等)に関する情報を確認することができ、日本には3つの信用情報機関があり、取引情報は5年~10年間登録されます。

信用情報機関

・全国銀行個人信用情報センター(KSC)
・株式会社シー・アイ・シー(CIC)
・株式会社日本信用情報機構(JICC)

個人情報が登録されている期間

KSCCICJICC
滞納・未納
※完済日から
5年を超えない期間5年を超えない期間5年を超えない期間
自己破産等・債務整理
※決定日から
10年を超えない期間5年を超えない期間5年を超えない期間

信用情報を回復させるためには最長で10年かかるということになりますが、フラット35では70歳未満までの方は住宅ローン申込ができるので、60歳未満の方なら住宅ローン融資申し込み可能ということになり、完済年齢は80歳未満で最長35年が借入期間となります。

そうなると、このときまでに任意売却時の残債を0円にしておく必要がありますが、忘れてはいけない重要なポイントは、登録が消えるのは完済日・決定日から5年~10年という事です。

仮に任意売却後の返済が月額5,000円で話し合いがついたとして年間6万円、10年間でも60万円のため残債額にもよりますが完済には遠い道のりで現実的ではありません。

そのため、再度マイホームを手に入れるためには自己破産等の権利を早期段階で行使して残債を0円にすることがポイントです。

メモ

【任意売却後の残債300万の場合、年齢40歳の場合】
CASE1.任意売却後毎月返済していく
月額5,000円返済×12か月≒年間6万円(完済に50年…)
40歳(任意売却時)→90歳(完済時)>ローン申込年齢制限 ※ローンが組めない

CASE2.任意売却後、15年以内に自己破産で法的整理
40歳(任意売却時)→55歳(自己破産決定)→65歳(信用情報回復)ローン借入可能期間15年

CASE3.任意売却後、1年以内に自己破産で法的整理
40歳(任意売却時)→41歳(自己破産決定)→51歳(信用情報回復)ローン借入可能期間29年

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