親子間売買する際の注意点と住宅ローン対策

土地や建物など所有している不動産の名義が親から子供や夫から妻、または兄弟に変わるのは相続が一般的です。

しかし「親に代わって住宅ローンの返済を実際にしてきた」や、「遺産分割で兄弟間が揉める前に親から不動産を購入して売却代金で遺産分割できる準備をしたい」などの理由で不動産を親子間売買する場合に、知っておくべきポイントや注意点を解説しますのでご参考にして下さい。

親子間売買での適正価格について

通常の不動産売買では、売主の少しでも高い価格での売却希望と、買主の安い価格での購入希望を調整して合意がなされるため、どちらか一方に偏ることはありませんが、不動産を親子間売買するときは通常の不動産売買と違い、買主となる子供や妻、兄弟などの負担を軽減するために売買価格を市場価格より低く設定してしまうケースがあります。

親子間売買での売買価格は時価が基準となりますが、これより著しく低い価格だと「みなし贈与」とにみなされ、買主となった子供や妻、兄弟などに贈与税が課税されてしまうことがあります。また、これを避けるため高い価格で売却したことで売主に売却益が生じると譲渡所得税が課税されてしまいます。

そのため、みなし贈与にも譲渡所得税も発生しない適正価格の設定が、不動産を親子間売買する際に一番重要となります。

みなし贈与とは

時価よりも著しく低い価格で売買した場合、金銭や不動産などを譲り受けると贈与税が課税されます。親子間売買では代金授受のある売買なので、一見すると贈与には該当せずに問題ないように思えます。

しかし、著しく低い価格で売買してしまうと、時価で売買したときに本来は受領すべき価格との差額は、買主である子供や妻、兄弟等が贈与を受けたことになります。これを「みなし贈与」といいます。

相続税法7条では、著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合は時価との差額はみなし贈与として贈与を受けた者に贈与税が課されると規定されてるため、「著しく低い価格」に該当しないため十分に検討する必要があります。

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時価の定義と適正価格の決定方法

親子間売買で基準となる時価とは、実際に市場で売買が行われている取引価格とされていますが、国税庁では「著しく低い価額」であるかどうかは、個々の具体的事案に基づき判定としており、これに関して明確な基準が設けられているわけではありません。
国税庁HP「著しく低い価格で財産を譲り受けたとき」より一部抜粋

時価に関するひとつの目安として、平成19年8月23日の東京地方裁判所の判例では、時価のおよそ80%の親族間売買は著しく低い価格での売買(低額譲渡)ではないと判断され、みなし贈与税は発生しないという判断を裁判所が下しました。

判例メモ

著しく低い価格と判断された事例(平成18年3月28日判決)
譲渡者が、本件土地の時価(通常の取引価額)及び時価と路線価評価に基づく相続税評価額との開差を認識していたと認めるのが相当な状況であること
本件土地の周辺の地価が横ばいである状況下において、投資目的で取得した本件土地に係る共有持分を、取得価額を下回る相続税評価額相当額で譲渡することには経済的合理性がないこと
本件土地の時価が下落した事実が認められないなか、本件各共有持分を相続税評価額相当額で長男らに譲渡することにより、譲渡損失を発生させ、譲渡者の財産が減少していること

著しく低い価格ではないと判断された事例(平成19年8月23日判決)
譲渡者が 13 年 8 月に購入してから 15 年 12 月に譲渡するまで 2 年以上経過していること
購入者が取得したのは土地の持分で容易に換価できるものではなく実際に換価していないこと
譲渡者に流動資産を増やしたいとの一応の合理的理由があったこと

 

土地の時価評価で一般的に利用されるデータ

土地や建物の取引価格は、土地の形状や前面道路の幅員、接道間口や方位、隣地環境や建物仕様や築年数によって変わるため、適正価格の決定は、次にご紹介する客観的データに基づいて総合的に算出することになります。

公示価格

国土交通省が、全国約3万地点を不動産鑑定士に評価を依頼して、毎年1月1日時点の価格を公表。
主に公共用地の収用する時の適正な補償金の算定や民間の土地取引に利用され、最も時価に近い指標とされる。

基準地

価都道府県知事が、不動産鑑定士に評価を依頼して、毎年7月1日時点の価格を公表。公示価格が都市計画区域内を対象とするのに対し、基準地価は区域外の林地も対象としており、地価公示価格同様に土地取引の目安として利用される。

相続税評価額

国税庁が、財産評価基準として路線価図・評価倍率表を、毎年1月1日時点の価格を公表。
相続税及び贈与税の財産を評価する場合の指標とされ、公示価格の80%を目安に設定されている。

固定資産税評価額

市町村長が、総務大臣が定める固定資産評価基準に基づき、土地・建物所有者に固定資産税等を賦課。
土地は公示価格の70%程度、建物は建築費の50~70%程度から築年数を勘案して設定されている。

鑑定評価額

国土交通省の不動産鑑定士名簿に登録された不動産鑑定士による不動産鑑定。
不動産の経済価値を判定した結果を価額に表示する鑑定評価は、公示価格の決定等をおこなう不動産鑑定士の独占業務であり、それ以外の者が不動産の鑑定評価をおこなうと刑事罰の対象となる。

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親子間売買での住宅ローン融資

親子間売買で住宅ローンの融資は取り扱いをしない銀行が多いなか、売買の理由や借入対象者の年収や生活状況、保証人の有無、不動産担保評価額等などの内容で融資を行っている銀行もあります。

その場合、「不動産会社の仲介による売買契約を締結して所有権移転すること」が各銀行の共通した規定のため、親子間売買で住宅ローンの融資を受けるためには不動産会社による仲介が必須条件となります。

親子間売買でもフラット35で住宅ローンが組める

フラット35とは、住宅金融支援機構と民間金融機関が共同で提供する最長35年で組める全期間固定金利型の住宅ローン商品のことです。

固定金利のため、融資を受けてから返済完了までの金利や毎月の返済額は変わらないことが大きな魅力です。その他にも保証人が不要であったり、繰り上げ返済をするときの手数料がかからないメリットがあります。

親子間売買でフラット35を使うときの条件とは

親子間売買でフラット35を利用するときは通常の利用条件のほかに次の項目があります。

  1. 宅地建物取引業者が媒介とした売買契約を締結していること。
  2. 所有権移転登記の登記原因が売買となるものであること。
  3. 売主が同居していないこと。
  4. 売主は同居していないが、申込人が賃貸借契約をしないで居住していないこと

融資の対象となる不動産は、住宅金融支援機構が定めた技術基準に適合した住宅で、床面積が次の基準を満たしていることが条件となります。店舗や事務所等の併用住宅は、住居部分の床面積が非住居部分の床面積以上であることが必要です。

一戸建の場合マンションの場合
70㎡以上30㎡以上

銀行で住宅ローンの融資が受けにくい理由

売買する理由

親子間や夫婦間で土地や建物の名義が変わる理由は相続が一般的であるため、住宅ローンを利用した事業資金の確保ではないか?相続税を軽減するための売買ではないか?等、敢えて売買にする理由が懸念されます。

自己利用の原則

住宅ローンは自己が居住のために利用することが条件となっています。もし、購入した土地や建物に住民登録はしているけど実際には親しか住んでいなかったり、親に貸している場合は、住宅ローンの適用外で一括返済を求められることがあります。

売買価格の公正判断

住宅ローンの融資を行う場合に銀行は土地や建物に抵当権の設定を行います。第三者との売買と異なり、親子間・親族間だと一方に偏った価格になりがちなため、抵当権を設定する際の担保として正当な価格評価が懸念されます。

不動産仲介会社の必要性

親子間売買での住宅ローン融資は、すべての金融機関で対応しているわけではありません。

対応している金融機関のなかでも融資条件はまちまちで、売主が転居することや、保証人がいることが条件となる金融機関などもありますが、原則として不動産会社の仲介による取引であることが条件としています。

市場で取引される不動産を取り扱えるのは、宅地建物取引業の免許を有する不動産会社に限ることが宅地建物取引業法に定められているため、不動産会社の仲介により売買価格(取引価格)や、重要事項説明書・不動産売買契約書に問題がないかをチェックして安全に取引を進めることができます。

親子間売買の住宅ローン控除

住宅ローンを利用して居住用の住宅を購入した際に、一定要件を満たすと毎年の住宅ローン残額の1%を所得税から10年間控除する「住宅借入金特別控除(住宅ローン控除)」を利用することができます。

一定要件の項目に「取得の時に生計を一にしており、その取得後も引き続き生計を一にする親族や特別な関係のある者などからの取得でないこと」となっています。

土地や建物を取得する時に同居していたり、取得後の同居を検討してる方(住宅ローン対象外になる可能性もあります)は対象外になってしまいますので、税務署に事前確認することをお薦めします。

親子間売買した時の税金

不動産を譲渡(売却)した際の価格が、取得(購入)したときの価格と取得にかかった費用(仲介手数料など)を差し引いて利益(譲渡所得)が出ると、譲渡所得税が課税されます。

税率は不動産の所有期間によって異なり、譲渡(売却)した年の1月1日現在で所有期間が5年超えの場合は「長期譲渡所得」、5年以下の場合は「短期譲渡所得」となり、これに復興特別所得税2.1%が上乗せされた次の税率となります。

・長期譲渡所得(所有期間5年超え):20.315%(所得税15%×2.1%+住民税5%)
・短期譲渡所得(所有期間5年以下):39.63%(所得税30%×2.1%+住民税9%)

譲渡(売却)価格と取得(購入)価格の証明には原則として不動産売買契約書が必要になりますが、ここで注意が必要です。

親から相続で取得した不動産で契約書が見つからないときや、取得(購入)したときの契約書の保管場所を忘れてしまったとき等で、取得(購入)時の不動産売買契約書がない場合、譲渡(売却)価格の5%が取得価格となるため、早めの確認をお薦めします。

3,000万円特別控除など税金軽減される代表的な特例

譲渡所得税には様々な特例があり、適用できれば最大非課税になりますのでご紹介します。

①3,000万円特別控除
居住用不動産を売却した場合、所有期間の長短に関わらず譲渡所得から最高3,000万円までは控除できる特例で税金はかかりません

②居住用財産売却による軽減税率の特例
居住用不動産の所有期間が10年を超えて売却した場合、譲渡所得の6,000万円までは税率が次の通りに軽減されます。

・課税譲渡所得6,000万円以下:14.21%(所得税10%×2.1%+住民税4%)
・課税譲渡所得6,000万円超え:20.315%(所得税15%×2.1%+住民税5%)

③居住用財産の買換え特例
居住用不動産を売却して買い換える場合、売却した価格より購入した価格の方が大きければ課税さないという制度です。

3,000万円控除との併用はできませんが、こちらを選択すれば課税譲渡所得が3,000万円を超えた場合でも税負担を軽減することができます。

親子間売買の仲介手数料

親子間売買の報酬は、通常の不動産売買同様に仲介手数料となります。

仲介手数料は、宅地建物取引業法により物件価格に対して規定されているため最低報酬額の設定はなく、成功報酬のため着手金等も一切必要ありません

また、住宅ローンの申し込み手続きや売買契約書・重要事項説明及び調査(法令調査・現地調査すべて)などは全て仲介業務の一環となりますので、仲介手数料以外の別途費用はありません

仲介手数料の規定

物件価格200万円まで:物件価格×5%+消費税10%

例/物件価格200万円の場合:仲介手数料=11.0万円

物件価格200万円~400万円まで:4%+2万円×消費税10%
例/物件価格300万円の場合:仲介手数料15.4万円

物件価格400万円以上:3%+6万円×消費税10%
例/物件価格1,000万円の場合:仲介手数料39.6万円
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親子間売買のよくある質問

親子間売買に関する「よくある質問」をまとめましたのでご紹介します。疑問点や不明点がある場合のご参考としてください。また、掲載されていないご質問はお気軽にご相談下さい。

不動産仲介と直接取引はどちらのほうが良いですか?

まず住宅ローンを利用する場合には銀行規定により不動産会社による仲介が必要です。

次に適正価格に関してですが、実際の市場による取引価格を把握しているのは宅地建物取引業者のため不動産会社へ依頼することがベターと思われます。

住宅ローンの利用がなく適正価格の助言や契約書及び重要事項説明などの書類作成・法的調査も必要としない場合にはじめて、直接取引のご検討が宜しいと思われます。

競売になっている不動産でも親子間売買できますか?

住宅ローンの滞納や競売、税金の滞納等により差し押さえになった不動産でも、借入金や滞納税を返済して差し押さえが解除できれば第三者に手放すことなく親子間売買は可能です。

万が一、借入金や滞納税が多額で適正価格では返済できない場合には、任意売却により債権者の合意を得ることで可能です。

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