親子間売買したとき「みなし贈与」扱いされないための注意事項

不動産を親子間売買したときに、贈与と間違われないために売買契約書を作って所有権移転登記に添付します。そして、買主も売主も土地の売買で生じた損益を確定申告に記入して、きちんと申告します。

それでも買主が不動産を取得した翌年5月頃に「未申告の贈与税」の請求納付書が税務署から届いてしまうことがあります。

親子間売買の契約だからといって、身内価格で市場よりもかなり安い価格設定で取引した場合、このような税金徴収が起ってしまいます。

贈与税は相続税に比べて非常に高いので大きな出費となります。しっかり手続きをしたのにどうしてでしょう?

これは税務署の手違いではありません。「みなし贈与」の税徴収なのです。

どうしてこのようなことが起ってしまうのか、どうしたらみなし贈与のリスクを避けることができるのか、この記事では詳しく解説していきます。

親子間売買でみなし贈与にされないための3つの注意点

親子間売買を行うなら、贈与でないことを証明するために次の3つを行う必要があります。注意事項とそうするべき理由について表でまとめてみました。

不動産の親子間売買で行うべき3つの重要事項
売買契約書作成贈与ではないことの証明と、他の親族とトラブルを防ぐため
所有権移転手続きを行う売買代金によって売主から買主へと所有権が移転したことを明確にするため、相続時に被相続人の財産がないことを明確にするため。現金取引なら自分でも手続き可能。
適正価格を設定相続税逃れの売買契約と誤解されないため

さて、上記表を見て多くの方が「適正価格ってなに?」と思ったのではないでしょうか?「親子だから、親族だから」と思わず親子価格や親族価格といった市場価格(時価)よりも格安価格で取引してしまったら「適正価格」にはならない事が多いとお考え下さい。

このような場合、税務署から「みなし贈与」扱いされてしまう可能性が高くなります。しかし適正価格=市場価格とも言い切れません

適正価格については、後で解説します。

国税は「みなし贈与税」を取りたい

国税は、少しでも税収を多くしようと「みなし贈与税」という制度を作っています。でも、不動産の売買やその価格について申告するのを忘れていても税務署からみなし贈与税を徴収されてしまうこともあります。どうして税務署にバレてしまうのでしょう。

国税は、「払うべき税金を逃れることを許さない」という精神で、逃さず税金を徴収する仕組みを作っているのです。

国税に不動産売買をしたことがバレてしまう理由

では、どうして売買契約の金額まで国税にバレてしまうのかを解説しましょう。

税務署と法務局は非常に密接な関係にあって、不動産の所有権移転があると同時に管轄税務署に連絡が行きます。固定資産税を徴収するため、毎年1月1日の不動産所有権者情報をもれなく取得できるようにする仕組みです。

買主は法務局で所有権移転手続きをするときに、所有権移転の原因関係証明書(所有権を移転する理由を証明する書類)として売買契約書を、所有権移転登記申請書に添付しなければなりません。

売買契約書が法務局の添付書類についているのですから、不動産の所有権移転手続き完了とともに、そのデータが税務署にも届くという仕組みです。

その売買契約書の取引価格が適正価格でなければ、「相続税の脱税対策では?」と税務署は勘ぐってしまうのです。

国税の認識から生まれた「みなし贈与」とは?

ここで、税務署に「相続税の脱税対策の贈与では?」と思われない価格が適正価格です。

いわゆる市場価格ですが、市場価格は時価のようなもので法律で一律に定められているものではありません

税務署(国税)が認識する「適正価格」と売買契約の取引価格にズレが生じて、税務署の職員が「安すぎる!」と感じれば不動産の適正価格との差額を贈与とみなして、税務署職員は未申告の贈与税を徴収する処分を決定してしまいます。

この税務署職員が「適正価格」だと思っている価格に、明確な基準がないから予期せぬ「みなし贈与税徴収!」なんてことになるのです。

ここで、なぜ「みなし贈与」かというと、形式上でも売買契約書があるのですから、売主と買主には贈与の意識はありません。しかし、税務署が売買でも適正価格との差額を贈与とみなしているのだから、便宜上「(贈与とみなした)みなし贈与税」という言葉が生まれたわけです。

みなし贈与課税対象額=適正価格-売買取引の不動産価格

みなし贈与税の計算式は、「みなし贈与課税対象額=贈与税課税対象額」として、普通の贈与税の税率になります。

みなし贈与と疑われない適正価格とは?

先述したように、適正価格に関する法律はありません。税務署に有無を言わせない適正価格とは、いったいどのように設定すればよいのでしょう?

税務署に有無を言わせないためには、法律に適応する必要がありますが、適正価格に合致する法律はありません。固定資産税の参考になっている路線価(路線価がない地域は評価倍率)と市場価格は、多くの場合異なります。

規定がない場合、日本では判例・裁判例を参考にします。

裁判で適正価格を争う場合、不動産鑑定士の評価が基準となります。しかし、不動産鑑定士の依頼料は非常に高価です。土地、土地と建物、土地の用途や広さ等々によって価格はさまざまですが、20万~80万円ほどといった感じでしょうか。

しかし裁判ではないので、複数の不動産業者の査定の平均値、不動産の一括査定サイトでの査定価格の平均値を適正価格に挙げることで代用できます。

各不動産業者は、実際に不動産を見てその不動産に適した市場価格を算出しているからです。

【参考】不動産会社が考える「適正価格」

不動産業者は、不動産物件の売買の際の評価額に関する意見を述べるときには、宅地建物取引業法第34条の2により、その根拠を明らかにしなければなりません。その際には仲介手数料についての説明も欠かせません。評価額に関する根拠とは、下記表のような内容です。

物件種別適正価格の基礎となる参考価格
新築物件一戸建土地代+建築費総額+広告・販促の費用+不動産会社の利益
マンション(土地代+建築費総額+広告・販促の費用+不動産会社の利益)/総戸数
中古物件一戸建公示価格や路線価を検討し、過去の取引事例・統計的客観的な事例等を参考にし、さらに建物の管理状況、室内の状況、駐車場の有無や周辺環境等々多角的な角度から加算したりマイナスしたりして算出します。

建物は築年数によって減価償却して価格が目減りしていきます。

※計算方法は減価償却率を使った計算で、2007年以前と以降に建った建物の計算方法も異なります。非常に複雑なので、固定資産税納付書の課税明細書の評価額(課税標準額)を参考にして下さい。

※土地も建物も固定資産税の課税明細書の評価額(課税標準額)が相続税の評価額となります。但し、時価とは異なります。

マンション不動産会社の査定を参考にした売主の希望価格+仲介手数料

しかし上記表は、不動産業者が評価額の意見を述べるときの根拠を参考にして算出した価格です。需要(買手)と供給(売主)のバランスによって、この価格は状況に応じて変動していきます。

状況とは、その物件の周囲の環境や立地、利便性、デザイン、築年数、世の中の景気の状況等々、さまざまな要素を総合的に加味した評価によって左右されます。世代や家族構成によっても異なってきます。これら総合的な評価が加味された結果、需要と供給のバランスによって価格が変動し、最終的に売主と買主の合意によって不動産の価格は決定するのです。これが市場価格です。

裁判例による適正価格

東京地方裁判所の裁判例を紹介します。

事件番号 平成18年(行ウ)第562号/ 裁判年月日 平成19年8月23日/ 法廷名 東京地裁/ 裁判種別 判決

■事件概要
Aが妻と子に路線価で不動産の持ち分の一部を平成15年12月25日に路線価で売った。そして、妻子は確定申告も行った。しかし、所轄税務署長は、「著しい低額の価格の対価によって得た土地」として、時価の差額を贈与として扱い、平成15年分の贈与税をその年贈与税の申告漏れとして請求(決定処分)した。それを不服として、管轄税務署に対して取消訴訟を提訴した。裁判の結果、「著しい低額の価格の対価」とはいえないため贈与税徴収の決定処分を違法として取り消す、との判決が下った。管轄税務署は控訴しなかったので、この地裁の判決が確定した。

この裁判例から、「適正価格」のみなし贈与とみられる「著しく低い価格」の基準ができたといえる。

時価は相続税評価額と同視する必要はなく客観的交換価値を意味する
『「著しく低い価格」の時価の対価での売買は課税対象とされる』ということは「少し低い価格」は課税対象でない
相続税評価額と同水準の価格、あるいはそれ以上の価格は、市場価格よりも少し低額でも「著しく低い価額」とはいえない
反対に、相続税評価額の80%未満の低価格の場合は「著しく低い価格」というべき
売買に至った理由から相続税逃れの意図の有無を考慮する
経済状態やその他総合的な判断から社会通念に従い、「著しく低い価格」かどうかを判断
社会通念に従うと例外もありうるので、ケースバイケースともいえる

この裁判によって相続税評価額の80%未満の低価格の場合は「著しく低い価格」という「みなし贈与」となる売買価格の基準が明確になったといえます。

そもそもみなし贈与は、所得格差の公平性を維持するために悪質な「相続税逃れ」、いわばお金持ちの税金逃れ等を取り締まるための制度です。

だから、ものすごいお金持ちが少し低い価格で取引をした場合と、低所得者が裕福な叔父から生きていくために低額で戸建を譲り受けた場合を同一に見てはいけません。

同じ価格で不動産売買取引が行われたとしても、ものすごいお金持ちの買主と、低所得者の買主では、社会通念によって状況が全く異なるということです。

総合判断|適正価格とは?

不動産の親子間売買の設定価格は、価格だけでなく、売買をするに至った経緯、所得水準、その他諸々の事情を勘案して、総合的判断が必要とわかりました。

その基礎となる判断は以下です。

1.土地や戸建については、新築・中古双方とも、複数の不動産業者の意見や査定を参考に
2.周辺地域の不動産価格も参考に
3.路線価を基準とした相続税評価額(固定資産税)の80%以上の価格であること

以上を参考に算出した上で、親子間売買に至った経緯や、買主の経済的事情や、それらの事情を考慮して社会通念上「著しく低い価格」でないと判断された価格という事になります。

しかし、社会通念の感覚には、育った環境や感じ方、性格等によって個人差がありますので、例外はたくさんありそうですね。

適正価格にも社会通念によって例外がある

令和2年4月1日、国税庁は、個々の事情の例外規定(No.4423 著しく低い価額で財産を譲り受けたとき[令和2年4月1日現在法令等])を発表しました。

また明確な社会通念の指標ができました。

例えば、養育費や慰謝料を支払えない息子と離婚してシングルマザーとなってしまう嫁と孫に対して、少しでも生活の糧になるようにと低額でマンションを譲渡することもあります。

シングルマザーとなる嫁は、生活力がなく低所得者であるため、資力の関係上、不動産を相続税評価額の80%未満の低額で譲渡するしか方法がありません。

このような事情の場合は、適正価格に満たない部分の差額を「みなし贈与」と判断して贈与税を徴収するのではなく、例外的に売買契約とみなされるのです。どうしてかというと、義父の不動産をわざわざ嫁と孫に売ることにした経緯に注目されたからです。

数日後に息子夫婦が離婚します。息子を扶養している親が、息子が支払うべき養育費に充てるために、著しく低額の不動産の譲渡(売買)を行った場合、適正価格との差額分は、息子の債務(養育費・慰謝料)に充てられます。

だから、このような場合は社会通念上、相続税逃れのためのみなし贈与は不適当です。息子の債務(養育費・慰謝料)を親が肩代わりしたにすぎないのです。

息子の債務の支払分を「適正価格との差額」として、みなし贈与として贈与税が徴収されては社会通念上、あまりにも理不尽でしょう。

このように、売買に至った経緯による判断は非常に重要です。

みなし贈与の徴収は、相続税逃れを摘発するのが目的なのですこの法の趣旨を覚えておいてください。

明らかに適正価格の枠からはみ出してしまっても、そうなるに至った社会通念上例外処置が適当と思われるような事情がある場合は、税務署にその事情を理解してもらわなければなりません。

例外的な処置をしてもらえるよう、売買に至った経緯や所得証明等を用意して、管轄の税務署に前もって事情を説明し、理解してもらうことが必要です。

親子間売買は住宅ローンが通りにくい

「相続を待っていれば手に入るような親子・親族間の不動産売買をわざわざ行うからには、何かしら理由があるのかもしれない」と思うのが人情です。

そして、何か事情があるなら力になってあげようという善意ではなく、意地悪く勘ぐり税金を徴収しようとするのが国税法ですから、金融機関もその考え方に右にならえしてしまうのが一般的です。

理由は、もしも違法な相続税逃れの不動産売買だった場合に、何も知らずに住宅ローン等の融資をしてしまったら、後から脱税逃れに荷担した不正融資であるかのように金融庁から疑われてしまうリスクを金融機関は恐れているからです。

以上の理由で、一概にはいえないものの親子間売買に関する住宅ローンの融資は、通常の不動産売買の融資よりも審査が厳しくなることを認識しておきましょう。

住宅ローンが借りられないとなるとプロパー融資となります。住宅ローンだと1%以下が多いこのご時世にプロパー融資は2~5%となり、利子だけでも大きな差額です。しかもプロパー融資は利子を含めた返済額が大きいので、住宅ローンよりも借入枠が低くなります。

でも、国税庁のみなし贈与の例外があるように、その例外に該当する相続税逃れではない親子間売買にする事情があるケースが多いのも実情です。

親子間売買で住宅ローンを獲得するには、これらの事情を金融機関や保証会社にわかってもらう交渉力が必要となります。

そのためには、金融機関とのパイプの強い大手不動産業者等を仲介者にすると、不動産業者と金融機関の担当者同士の人間関係から、例外的な事情をしっかりと吟味し考慮してもらえるチャンスを得られる可能性が高くなります。

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まとめ

いかがでしたか?

不動産の親子間売買は一見難しそうですが専門家が介入することで、みなし贈与にならない適正価格の設定や住宅ローンの融資承認、低額取引でも例外となる事情があることを税務署に理解してもらうことができます。

これらの交渉は、個人では非常に難しいので専門家に任せるのがお勧めです。

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