建物の価値は通常、新築の方が高くて築年数が古くなるにつれて価値が減少していきますが、いったい何年経過したら建物価値がゼロになってしまうんでしょうか?
ここでは建物価値の算出方法や、古家を売却するときのリスク、古家を高く売るための賢い売却方法などをご紹介します。
築何年から古家になるの?
新築以外は中古となるのですが、古いという感覚は人それぞれ異なります。そのため何年以上経ったら古家になるという明確な基準はありません。
例えば、築100年以上経過している歴史的建造物でも古さを感じないこともあれば、築年数がさほど古くなくても使用状況がよくなければ古さを感じることもあります。
そこで古家の判断として、建物の物理的な寿命の観点から税法によって一定に規定された耐用年数が判断のうえで目安となります。
木造建造物の耐用年数は22年なので、築22年を超えると古い建物という認識が一般的です。また、キッチンやバスシステムなどの建物設備は、10年単位でみるとデザインや性能が大きく変わっているので、築20年以上だとやはり古さを感じることが多くあります。
法定耐用年数と経済耐用年数
一般的によく知られている耐用年数として、税法上の耐用年数に該当する「法定耐用年数」があり、物理的な寿命の観点から税法によって次の表のとおりに法定耐用年数が定められています。
用途 | 住宅用 | 店舗用 | 事務所用 | 飲食用 |
木造 | 22年 | 22年 | 24年 | 20年 |
S造(鉄骨造) 骨格材厚≦3㎜ | 19年 | 19年 | 22年 | 19年 |
S造(鉄骨造) 3㎜<骨格材厚≦4㎜ | 27年 | 27年 | 30年 | 25年 |
S造(鉄骨造) 4㎜<骨格材厚 | 34年 | 34年 | 38年 | 31年 |
RC造 | 47年 | 39年 | 50年 | 34/41年 |
SRC造 | 47年 | 39年 | 50年 | 34/41年 |
もうひとつは、不動産鑑定評価に使う「経済耐用年数」があり、新築から無価値になるまでを「物理的要因」「機能的要因」「経済的要因」により表したもので、建物が経済的な価値を持つのはあと何年か?あと何年で無価値になるか?を評価したものをいいます。
建てられた時期や工法などが一緒でも、利用状況によって建物の傷みに差が生じるため前述した3つの要因を総合的に勘案して、建物が経済的に稼働できる残りの寿命を不動産鑑定士が判定し、建物状態によっては法定耐用年数より長い期間で判定されることもあります。
新築物件っていつまで言うの?
新築と言えば、新しく建てられたまだ誰も住んでいない家を想像すると思いますが、「誰も住んでいなければ何年経っていても新築なのか?」というと、そうではありません。
住宅の品質確保の促進等に関する法律によると、「新築住宅とは、新たに建設された住宅で、まだ人の居住の用に供したことのないもの(建設工事の完了の日から起算して1年を経過したものを除く)」と記載されています。
- 過去に誰も入居したことがない建物
- 建築後1年未満の建物
マンションの耐震基準は旧耐震基準?新耐震基準?
マンションの場合、法定耐用年数の他に注視すべきポイントは建物が旧耐震基準か?新耐震基準か?ということです。
昭和56年6月に耐震基準の大幅な改正があり、建物の倒壊回避や建物内の人名っ救助が重要視され、旧耐震基準では震度5程度に耐えうることが基準でしたが、新耐震では比較的よく起きる中程度の地震で軽度なひび割れ程度、震度6~7程度でも崩壊・倒壊しないことが求められる基準に引き上げられました。
建築確認済証の交付が改正以前の建物を旧耐震基準、この以降の建物を新耐震基準といい、旧耐震基準の建物は古さを感じられるようになりました。
そのためマンションの場合は、耐用年数を超過していなくても安心ではなく「旧耐震基準に該当していないか?」も確認する必要があります。
RC造やSRC造のマンションだと法定耐用年数は47年なので、耐用年数を目安とすると昭和49年以降(※令和2年時点)なら大丈夫のように思いますが、耐震基準を目安にすると、昭和56年以前の建物は古家と感じられるようになりました。
震度 | 旧耐震基準 昭和56年6月以前 | 新耐震基準 昭和56年以降 |
震度5 | 崩壊・倒壊しない | 軽度なひび割れ程度 |
震度6 | 崩壊・倒壊のおそれあり | 倒壊・崩壊しない |
震度7 | 崩壊・倒壊のおそれあり | 倒壊・崩壊しない |
旧耐震基準だと住宅ローンが使えない?
銀行等が住宅ローン融資をする際に物件に対して様々な基準を設けています。マンションの場合だと、旧耐震基準は融資できないという銀行が多く、住宅ローンを組んで購入を考えている人へは売却が難しいことがあります。
しかし、旧耐震基準のマンションでも耐震評価基準を満たしていることを証明する耐震基準適合証明書を取得できれば融資が可能になります。管理組合が耐震基準を実施し、適切な耐震補強工事をしていたり、過去に同じマンションで耐震基準適合証明書が発行された実績があれば問題なく取得できる可能性があります。
また、耐震補強工事を実施していないマンションでも、次の条件を満たしている場合は耐震診断適合証明書を取得できる可能性があります。
- 5階建て以下
- 鉄筋コンクリート増の建物
- 壁式構造(柱や梁ではなく、壁で建物を支える構造)
- 地形が要
- 設計図書の閲覧が可能
古家で売却するメリットとは
古家のままで売却する時のメリットは、建物解体費やリフォーム費用をかけずに現況のままで売却することができるので余計な費用が掛かりません。一戸建なら樹木や庭石などもそのままで売却できますし、庭いじりが好きな人からしたらプラス評価になることもあります。
また、古家があることで固定資産税・都市計画税の負担額が軽減される「住宅用地の特例」が適用されます。更地にしてしまうと特例が適用されなくなるので、古家が売却できるまでは税金を抑えたいという人にはメリットとなります。
購入希望者からすると、そのままリフォームして利用を検討している人でも建て直しを検討している人でも、建物があることで日当たりや住宅の大きさが分かりやすいというメリットがあります。
古家に潜む怖いリスク
2020年4月から民法が改正されて、今まで不動産を売却した後の不具合に関する定めであった「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」に変更されました。瑕疵担保責任では損害賠償請求や契約解除を求めることができましたが、修理・代替物等の請求や代金減額はできませんでした。
しかし契約不適合責任に変わり、契約の内容に適合しないときは、修理や代物請求などの追完請求や代金減額請求することができるようになり、引き渡し後に買主から請求される範囲が広がりました。
2020年4月1日民法の債権法の大改正が行われました。債権法とは、売買契約とか売買契約に関する不法行為等が定められている法律です。 その法律が大改正されることによって、不動産の売買はどう変わったのでしょうか? 一言でいうと、今ま[…]
瑕疵担保責任では、引き渡しする前には気がつかなかった不具合(隠れた瑕疵)があった場合に売主が買主に対して負う責任で、主に雨漏りやシロアリによる柱の損傷、水道管の老朽化による水漏れなどでしたが、契約不適合責任では買主は契約書に記載のない傷や不具合があれば、その事実をもとに契約不適合責任の履行を求めることが可能です。
古家の場合、全ての傷や不具合を契約書に記載するのは現実的に難しく、契約不適合責任に改正されたことで売主のリスクが大幅に増えたことになります。
古家の賢い売却方法とは
住宅ローンの借入問題で購入者がなかなか見つからないことや、引き渡しをした後も心配が残る契約不適合責任のリスクなどを回避して、古家を賢く売却する方法をご紹介致します。
古家を解体して更地で売却
古家があることによって契約不適合責任のリスクが高まるため、建物を解体することでリスクを回避することができます。更地にすることで土地が大きく見えたり、購入検討者が物件を見学時に古家が残っている状態より印象がよく、建て替えを検討している購入希望者なら古家を解体する費用の心配もなくなるので成約率も向上します。
古家の多くは建物価値は評価されないため不動産価格は原則として土地代金です。そのため、解体したことで建物分の価格が下がるという事はありません。
デメリットとして、建物解体費を準備する必要があります。一般的に木造2階建の解体費は200万円~300万円程度かかり、前面道路が狭くて大型トラックや重機が入らない古家だと更に割高になります。
資金を確保するために古家を売却することにしたのに、売却するために先行して手出しで大金をかけて解体してもすぐに売れるという保証がないことが懸念されるところです。
リフォームをしてから売却
故障や不具合を修理したり、引き渡した後に故障が指摘される可能性がある場所を修理することで、契約不適合責任を軽減することができます。また、新築同様にリフォームすることで印象が良くなり成約率が向上します。
デメリットとして、建物解体同様に先行して手出しで大金を準備する必要があったり、リフォームしても古家の築年数は変わらないため旧耐震基準のマンションなどだと住宅ローンの借り入れ問題は依然残ったままとなってしまします。
またリフォームの仕様に関しては、購入者の好みがあるので逆効果になってしまう懸念があります。
不動産会社へ売却
不動産会社の買取の場合、古家を売却した際の住宅ローンの借入問題や契約不適合責任といったリスクは一切ありません。分かりやすく言うと、売却した後はノークレーム・ノーリターンで安心です。買取の相談をしてから現金化まで、通常約1ヶ月程度なので早期に確実に売却することができます。
デメリットとして、一般の市場で売却する時よりも売却価格が下回ってしまいます。
不動産売却で「買取」と「仲介」の違い 不動産売却の手法として大きく分けると「買取」と「仲介」の2種類があります。仲介とは、 売主と買主の間に立ち、不動産取引を成約に向けて進めていくことを言います。 不動産会社が売主から依頼を受けると[…]
まとめ
古家を売却するときの「リスク」をどう考えるか?がポイントになります。
ご自身でリフォームや解体の費用と手間かけ、一定期間の販売期間を設けることができ、引き渡し後の補償問題などのリスクを負うことで、一般市場で少しでも高く売却できるように進めていくか?
または、売却価格は若干下がってしまうけど、費用や補償、成約までの販売期間など一切の負担や、引き渡し後の補償リスクを避け、ノークレーム・ノーリターンで安心を求めるか?
リスクを知ったうえで、あとから「こんなはずじゃなかった…」といった事にならないように専門家に一度相談されることをお薦め致します。