不動産の売主が法改正で不利に!?瑕疵担保責任と契約不適合責任の違いを徹底解説

2020年4月1日民法の債権法の大改正が行われました。債権法とは、売買契約とか売買契約に関する不法行為等が定められている法律です。

その法律が大改正されることによって、不動産の売買はどう変わったのでしょうか?

一言でいうと、今までの「瑕疵担保責任」という概念が改正されて「契約不適合責任」という概念に改正されました。

そこで、この記事では、不動産売買で売る主が不利になってしまうかもしれない契約不適合責任について、瑕疵担保責任との違いとともに徹底解説します。

契約不適合責任とはどういう責任?

契約不適合責任

改正前は「瑕疵担保責任」と呼ばれていたものが、2020年4月19日の民法債権法改正で「契約不適合責任」という言葉に変わりました。

法律の呼び名が変わっただけではなく、売主の担保責任の範囲が大きくなったのです。契約不適合責任とは、品質の不良、品物違い、数や量の不足等契約書に定める内容と異なる商品の納品をしたときに、買主がそれを指摘されたら負うべき賠償責任をいいます。

物品購入の時の債務不履行賠償責任の概念に近づいたといえます。

民法第415条(債務不履行による損害賠償)
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。

ちなみに、債務不履行は3つ(三分説)にわけられます。

債務不履行三分説
履行遅滞履行が可能にも関わらず、履行期を経過しても履行しない場合
履行不能債務の履行が不可能な場合
不完全履行履行行為がなされたが、それが不完全なものであった場合

契約不適合責任も、この3つの責任に関連して責任の取り方が定められています。

後から詳しく解説しますので、覚えておいてくださいね。

 

瑕疵担保責任の概念廃止の理由

今年の民法改正によってその概念が廃止された瑕疵担保責任の概念廃止の理由から説明しましょう。「瑕疵担保責任」と聞いても、言葉の意味がよくわからない、というのが一番大きな理由です。

不動産投資が盛んになった現代において、外国人との不動産取引も増加し、「瑕疵(かし)」という言葉を外国人が理解できないだけでなく、外国人に尋ねられても日本人が応えられないことも多いからです。

また、「瑕疵」の概念が明確に法で規定されていないことが2番目の理由です。

そもそも法で明記されていない「瑕疵」概念の責任はどうとれば良いのでしょう。それは、瑕疵とは日本の風習的な一面が大きく、長い時間をかけて裁判例で「瑕疵」の概念が形成されていたようなものです。

過去の判例から形成されて一般的になった瑕疵を、不動産流通協会(FRK)の標準契約書より抜粋してみました。

  • 雨漏り
  • 屋根や柱や梁等の家を支えるのに主要な部分の腐食(マンションは該当しない)
  • シロアリ被害
  • 給排水管の故障
  • 心理的瑕疵(騒音、事故物件、近隣に反社会的組織入居等々)
  • その他売主が物件について将来のトラブルを避けるための告知事項

※【引用】一般仲介用・土地建物(実測・清算)<契。NO4>11条(物件状況等報告書)13条(瑕疵の責任)|FRK 一般社団法人 不動産流通経営協会(PDF)

さらに、旧民法で定められていた瑕疵担保責任(民法第570条)の「瑕疵」とは「隠れた瑕疵」です。隠れた瑕疵とは、引き渡しの時に通常では気付かない「瑕疵」があったということであり、買主に重大な過失があった場合は除きます。

瑕疵が隠れていたかどうかの証明も厄介ですが、それ以上に瑕疵の概念の法規定がないことが、今回の法改正で注目されました。

瑕疵には、物理的瑕疵、心理的瑕疵、法律的瑕疵、環境的瑕疵の4種類あります。

瑕疵の概念は、先述したように過去の判例や社会通念上の一般感覚です。立証責任は買主にあるのです。もはや不可能に近い難関な証明責任を買主側が負わされてしまいます。これが買主泣き寝入りの大きな要因となっているのが現状です。

このような外国人から見たら任意規定のような「瑕疵」の概念は、国際的な情勢から不適当であるという判断から、瑕疵担保責任の概念は廃止されたのです。

契約不適合の概念

契約不適合の概念は、わかりにくい「瑕疵」という言葉を使わず、「不具合」としました。そして、契約書の内容と異なる納品物の不具合を「契約不適合」といいます。そして、先述しましたが、契約不適合は債務不履行の概念です。

これなら、国際的観点から見ても一般的でしょう。つまり、債務不履行責任なら契約書の通りです。

契約書に「キズ無し」とあれば、極端な話、契約を交わした後引き渡し前に売主が柱の傷を見つけて「契約書には『キズ無し』と書かれてますが、ここにありました」といったふうに告知して、買主が「まあ良いですよ。このくらい」と答えたとします。

しかし、買主は住んでみてキズが気になり始めたので、契約書に「キズ無し」とあることを理由に売主の責任を追求して賠償を求めることもできるということです。

反対に、どんなに不利な内容であっても、法律効果を双方が正しく認識していれば契約成立です。契約書通りですから、瑕疵担保責任の時に重要視された売主の善意・無過失は関係なく、契約書に書かれた内容が全てなのです。

契約書と異なったら「契約不適合」といえます。買主が立証する「不具合(契約不適合)」部分の証明が簡単になったのです。その分、売主に不利になりました。

但し、いくら契約書通りだといっても、法に触れる契約書は無効です。

ちなみに、不動産売買の場合は、宅地建物取引業法、消費者契約法等民法よりも優位な法律がありますので、その法律に抵触することは、契約書に書かれていても無効です。

例えば、契約不適合責任について「全部免責」というような任意事項を設けても無効です。

契約不適合責任の責任の内容

では、買主が売主に対して追及できる責任内容が増えたということですが、売主は買主からどのような責任を問われるのでしょう。契約不適合責任は、買主に味方した法律なので、買主ができる責任追及についてこの項では解説します。

契約不適合責任の責任は、債務不履行責任と考え方が同じです。

債務不履行には、履行遅滞、履行不能、不完全履行の3種類あります。この債務不履行の3分説が契約適合責任にも適用されます。

瑕疵担保責任では、契約解除と賠償責任だけでしたが、債務不履行の概念が投影されていますので、契約不適合性人では、下記表のような責任を問うことができます。

 買主が問える責任
履行遅滞の場合契約解除(催告)代金減額請求 損害賠償
履行不能の場合契約解除(催告・無催告) 損害賠償
不完全履行の場合追完請求 代金減額請求 損害賠償 契約解除

では、契約不適合責任と瑕疵担保責任を比較して見ましょう(下記表参照)。

買主ができることが増えました。

 改正後「契約不適合責任」の追求旧法の「瑕疵担保責任」の追及
追完請求

民法562

契約書に記載のない不具合が発生したときは、買主は売主に改修工事を請求できます。但し買主の責任で生じた不具合は請求不可。それを立証するのは売主。

但し、買主に大きな損害を被らせず配慮した上で、買主が指定した以外の別の追完方法を実行することができる

不可能

 

代金減額請求

民法563

契約内容に合っていない状態にある時は、契約の通りにあるように追完請求をすべきですが、以下の場合は減額請求にかえることができる。

・追完請求を行っても売主が約束の期間内にそれに応えられない場合

・追完不能なとき

・売主が追完請求を拒絶

・売主が催促しても買主が追完してくれる見込みがない

不可能

(第三者売買の場合のみ可能)

損害賠償請求

 

代金減額請求で対応できないような自体の時に、債務不履行の損害賠償請求(民法415)で対応

(売主の過失の度合いによって損害賠償を定める)

・履行責任に対する損害賠償

・信頼利益に対する損害賠償

物理的瑕疵/心理的瑕疵

/法律的瑕疵/環境的瑕疵

以上4つに含まれる瑕疵が存在したと立証できた場合の損害賠償は無過失責任です。

未催告解除

民法542

売主買主双方で相当に期間を定め、その約束に従って買主が追完請求をして、催促も行ってもなお売主が追完しない場合、事前通達なしに契約解除できる。料金を全額返金請求。その代わり不動産の所有権も得られない。但し、社会通念上契約解除に不適合な軽微な追完請求の場合は催告解除でなければならない。隠れた瑕疵の存在を立証できた場合のみ可能

 

 

催告解除

民法541

買主が追完請求をしたにも拘らず、売主が全く応じず、もはや減額請求では飼い主が納得できない状態に追い込まれたときに契約自体を無かったことにできる。

・引き渡し不能

・売主が引き渡しを拒否した

・売主が契約の一部しか引き渡してくれない

・再三の催促にも拘わらず定めた期間に引き渡しをしてくれずに、買主がもはや引き渡してくれる見込みがないと感じた時

隠れた瑕疵の存在を立証できた場合のみ可能

 

 

契約不適合責任の時効について

瑕疵担保責任の時効

瑕疵担保責任には、契約書に買主の責任追及の時効が設けられていました。不動産の場合、FRPの標準契約書のフォーマットでは、隠れた瑕疵の主張の時効は3ヶ月です。

大手ハウスメーカーや不動産等は、瑕疵担保保険等がついて10年だったり、中古物件だったら2年だったり、さまざまな優良無償のオプションサービスがついています。

すなわち、契約書に盛り込まれた任意時効というわけです。個人契約の場合は、長期保証の経済的な資金が無いために、だいたい3ヶ月(FRP基準)が一般的です。

契約不適合責任の時効

瑕疵担保保険は、契約上存在する任意時効のような概念でしたが、契約不適合責任には、法で時効が設けられました。法律で定められた「時効(消滅時効)」とは概念が異なります。

新築・中古の不動産売買

通常の新築・中古の不動産売買の場合は、以下の通りです。

改正民法第566条 責任追及の時効
売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない。

契約不適合責任の時効は、引き渡して、あるいは契約書に明示されていない不具合を認識してから1年で時効だと上記のように法で明記されています。

しかし、商法においては買主による目的物の検査及び通知義務というものが課せられています(商法第526条2項)。商法は民法よりも優位に立つ特別法ですから、会社として不動産取引をする場合は、商法に則って、時効は引き渡しから6ヶ月以内となりますので気をつけましょう。

また、個人間の不動産売買契約の場合、買主が隠れた不具合にいつ気付いて責任追及してくれかわからないのでは売主にとっては大きな不安材料となります。

そこで、個人間の不動産売買においては、住宅瑕疵担保責任保険協会の「瑕疵売買契約保険」という保険もあります。

【余談】請負契約には時効に別規定がある

中古の家の売買契約には関係ないの余談ですが、請負契約においては、契約不適合責任の時効の別規定があります(636条637条)。

発注者が用意した材料や指図によって生じた不具合に関しては、引き渡し後不具合が生じても請負人に契約不適合責任の追及をする事はできません。(民法第636条)。

もしも家を建てるとき、ステンドグラスや思い入れのある建具や柱を利用する場合、将来的に発生するかもしれない不具合について、施工業者と十分相談する必要があります。

売買契約書について売主が気をつけること|特約や容認事項を明記

契約不適合責任の施行によって、新民法では、契約書の内容が、不動産物件と合致していることが重要です。とくに中古物件の売主さんは、契約書に書かれていない不具合は、全て追完請求されてしまうという認識を持つ事が重要です。

そのために、中古物件を売る前に、不具合と思われる箇所を綿密に調査し、書き出すことも重要です。そして、買主にその不具合を容認してもらうよう、契約書に明記するのです。

例えば、ベランダの腐食があること、築50年のため、旧耐震基準で建てられていること、ブロック塀に亀裂が入っている、等々、売主が気になる点を全て正直に明記することが肝要です。

また、家の配管や水回り等設備についての不具合は、一切責任を負わないことを明記しましょう。「リフォームして○年」「築○年」「配水管清掃の有無等」の事実をしっかりと明記することで、不具合の責任は負わないことを買主に容認してもらうことが重要です。

しかし、とくに中古物件の場合は、不具合がある方が通常ともいえます。それが、買主側にとって許容できるかどうかは個人の判断となります。そんな時に、記入されていない不具合が生じたら、契約不適合とばります。追完請求されてしまうということです。

そうならないためにはどうしたら良いのでしょう。

インスペクション制度を利用しよう

これからの不動産契約は、不動産物件がどういうものかを客観的に知る必要があります。そのために、売却を考えたら、まずはその物件を知ることから始めましょう。

専門家に不動産物件の調査をしてもらうのです。この制度をインスペクション(建物状況検査)制度といいます。
(※検査機関や制度については既存住宅状況調査技術者講習制度について|国土交通省参照)

どのような調査をするかというと、国土交通省の定める講習を修了した建築士が、以下の検査をしてくれます。

・建物の基礎、外壁など建物の構造
・耐力上主要な部分及び雨水の浸入を防止する部分に生じているひび割れ
・雨漏り等の劣化・不具合の状況

基本目視やその他家を破壊せずに行える検査ですが、構造上の家の状況を把握し、その検査結果を契約書の容認事項に盛り込み、検査機関や検査報告書を添付することができます。

(詳しくは建物状況調査(インスペクション)を活用しませんか?|国土交通省(PDF)をご参照ください。)

インスペクションは3時間程度の検査で、費用は5万円です。5万円で、個人間の売買の不要なトラブルのリスクを大きく削減できます。

まとめ

いかがでしたか。契約不適合責任の契約書主義は、不動産の売主に大きな不安を与えてしまいそうな感じがするかもしれませんが、専門家の力を借りることで、特約や容認項目を十二分に活用して、物件に忠実に契約書を作成することで、不動産の契約不適合責任のリスクを予防できます。

そのためにも、専門家に相談して、インスペクションと契約書作りをお任せすることをお勧めします。多少の費用がかかりますが、スムーズな取引には欠かせない経費だと考えましょう。

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