第三者のために行う「中間省略登記」のメリット・デメリット

「中間省略登記」と聞くと「違法ではないの?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。

確かに、中間省略登記は、平成17年の不動産登記法の法改正による手続き書類(売買契約書等の登記原因証明情報)の厳格化によって不可能となってしまいました。

しかし、現実問題として、最高裁が認める三者(売主・中間業者・買主)合意の中間省略登記を法律が禁止をする形となり、不動産市場において混乱を招く結果となりました。

そこで、法務省の通達で、「第三者のために行う不動産売買による中間省略登記」という合法な手続き方法が誕生しました。従来からの中間省略登記は違法であり、それと区別するために、新たな合法手続きの中間省略登記を通称「新中間省略登記」といいます。

不動産を売却する人と購入する人にとっては、従前の中間省略登記と手続き上、大差ないのですが、法的な解釈が異なるのです。

ということは、契約書類や契約内容が異なってくることになります。

そこで、この記事では法務省も法務局も認める合法な「新中間省略登記」とは何か、また注意する点についてもあわせて解説します。

従来の中間省略登記と新中間省略登記の違い

中間省略登記はできなくなった

中間省略登記とは、不動産の所有者が実際にはA⇒B⇒Cと変わっているのに、登記上A⇒Cというふうに、中間のBの所有権がなかったかのように登記を省略してしまうことをいいます。まさにその名の通り「中間省略登記」です。

省略されたBの権利に関して、違法な手続きが行われていて、権利関係のトラブルが生じた時に、Bの所有権が確認できないことになります。これではBの被害者は救われません。

そのため、「所有権の移動が不明確になってトラブルの温床になってしまう」というのが法務局の意見でした。但し、市場の裁判所の意見としては「三者が合意していれば中間者を省いても良い」というものでしたが、法務局の主張は強硬で、ついに平成17年の不動産登記法の中間省略登記の手続き規制の厳格化という法改正が行われたのです。

その結果、権利関係の異動の添付書類(登録原因証明情報)が必須となったために、従前の不動産の中間省略登記が手続き不能となりました。

一見変わりなく見えるが法解釈の異なる「新中間省略登記」とは

新中間省略登記は、不動産の所有権が売主から中間者に移転しないまま直接買主に移転する取引です。中間者に所有権が移転しないので、中間を省略する登記ではないのです。法務局も登記原因証明情報が余すところなく正確に報告されるので合法と認めています。

その方法とは、「第三者のためにする売買契約(民法537条538条)」のやり方を取り入れた契約方法です。

非常に複雑なので、概略をご理解頂くために、デパートで行われているメロンの産地直売をイメージして下さい。

生産者とデパートが売買契約を行った場合、一般的にはデパートに商品を納めるのですが、産地直送の場合は、いくつかの特約が決められています。

  • お客様が指定する住所に生産者から直接お届けすること
  • デパートが生産者の利益のために料金を先払いしたとしても、所有権は生産者のところに留めておいて、お客様に直送するまで所有権者として商品の管理(味や鮮度)をきちんと管理して良質な商品をお客様に発送すること

・・・・etc.

このように、売買契約の商品となるものの設定や受け取り方法は、双方が納得すれば、どのような契約も結ぶことができます(物件の設定及び移転:民法176条)。

この取引を図で表すと[図1]のようになります。

中間省略登記の手続きをメロン直送の契約に当てはめると次のようになります。

不動産X(土地)の売主がA、不動産会社がB、買主がCとします。

  • 産地直送       ⇒ 新中間省略登記
  • メロン10個      ⇒ 不動産X(分筆するときはメロン1個ずつ)
  • 生産者A       ⇒ 不動産Xの売主A。
  • デパートのバイヤーB  ⇒ 不動産会社B
  • デパートのお客様   ⇒ 不動産Xを不動産会社Bから購入したお客様。

さて、法的な解説に入ります。

[図2]

AB間は第三者のために行う売買契約(民法537条538条)です。

この三者の契約を表した[図2]と、メロンの産地直送の三者の関係図[図1]と全く同じになると思いませんか。

メロンの産地直送のときのように、特約付のAB間、BC間で2種類の売買契約を行ったものと考えましょう。

AB間の売買契約書の特約とは

  • 第三者のための不動産売買契約であること
  • 第三者を指定するので、その指定した者と不動産を直接移転登記すること
  • 分筆についてどうするかも決めておく
  • 第三者に所有権を譲り受けるBの権利を譲渡したとしても、Aはその第三者に約束通り所有権を譲渡すること
  • もしもBが先に料金を支払ったときは、所有権の移転をBにするのではなく、Bが第三者のお客様を連れてくるまで所有権の移転をしないこと
  • 料金支払いまで時間がかかったとしても、その間に別の者との契約をしないこと
  • 第三者への全ての手続きは、Bに委託し、委任状等の署名押印が必要なときは協力すること

・・・・・・etc.

以上のような複数の特約を設けておきます。

だから、契約が成立してもすぐにはAからBへは、土地の所有権は移転しません

そしてBからAへの支払いについては、協議によって決めます。

BはAのために、土地の購入者の第三者を探し、第三者を見つけたら、Bが譲り受けるはずの土地Xの所有権を譲渡します。分筆の場合は、その特約に従って所有権を譲渡します。

つまり、所有権の移転は1度だけなのです。

通常、広大な土地Xを一括購入する人を見つけるのは非常に困難ですから、土地の所有者と話し合って売れやすい区画に土地を分筆します。

BC間の不動産売買契約の特約

BC間の契約も普通の不動産の売買契約に特約を設けた形となります。

第三者弁済という形式をとります。

・第三者弁済の特約(Bが将来所有するであろう不動産Xの所有権をAから直接取得する)

・所有権移転登記の手続きは、Aの代理人としてBが行う

・・・・・・etc.

不動産会社Bは、まだAの不動産の所有権を取得していない旨をCに正直に話して、将来的にBが取得するであろう不動産Xの所有権をCに譲渡するので、CはAから直接所有権移転登記を行うこと、そしてBがAの代理人として、Xへの支払い料金お受け取りも含め、手続き一切を行うこと等を特約に明記しておきます。

しかし、ここで疑問が浮かぶ人もいるかもしれません。宅地建物取引業者(不動産会社等)は他人物売買は禁止です。これに違反すると、宅地建物取引業者も宅地建物取引士も免許取消の重い罰を受けます。

「将来所有権を取得するであろうAの不動産Xについて売買契約を結ぶ」のは明らかな他人物売買です。

法が認めた合法的な手続きをしようとして、宅建業法違反となるのはあまりにも理不尽です。そこで一定の書類を揃えた場合の例外規定が宅地建物取引業法にも明記されました。

宅地建物取引業法施行規則第15条の6、4号:他人物売買の禁止の適用除外の規定)

参考:宅建業法の他人物売買禁止の適用除外について教えてください|月間不動産流通

つまり、「不動産会社が指定するものに所有権を移転することを契約書に明記したときのように、新中間省略登記を可能にする契約書類を作成した場合のみ例外とする」というような内容が、宅建取引業法に新規定として設けられたのです。

「所有権の移転しない不動産の売買契約なんて中間省略登記の脱法行為では?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、平成19年1月12日に法務省民事局が全国法務局へ正式に通達された第三者の売買契約を応用した不動産契約の方法で、法務局も認めている合法な手続きなのです。

中間省略登記のメリット・デメリット

中間省略登記のメリット

例えば、広大な土地を売却したい人は、不動産業者との売買契約が一般的です。

そもそも転売目的で土地を売りたいお客様のために購入するのですから、不動産会社は利益を得るために、不動産取引にかかる税金や登記手続きのための司法書士の手数料数十万円を差し引いて購入します。

不動産にかかる手続きにかかる税金は[表1]の通りです。

[表1]

不動産を取得したときにかかる税金計算式
不動産登録免許税(法務局手続費用)評価額×2%
不動産取得税(市区町村)
※2021年3月末迄の軽減税率税率(但し2021年4月以降税率4%)
宅地:評価額×2分の1×3%
住宅:評価額×3%

例えば不動産会社が土地7,000万円、建物3,000万円の不動産取引の場合

不動産登録免許税=1億円×2%=200万円

不動産所得税(宅地)=7,000万円×1/2×3%=105万円

不動産所得税(建物)=3,000万円×3%=90万円

合計=200万円+105万円+90万円=395万円

合計395万円の費用がかかります。約400万円もの税金がお客様負担です。

また、購入者のお客様には、1億円の不動産価格に不動産会社の利益を上乗せした金額にこれらの税金がかかるわけです。

新中間省略登記は、そもそも不動産会社に所有権が移転しませんので、この所有権移転に伴う税金分の諸経費が不動産の相場価格から引かれることがないので、その分高く売れるのです。

売買契約と同じサービスを受けられる

広大な土地の場合は売れやすい広さに分筆して売る方が買い手はつきやすいとはいうものの、それを個人で行うのは容易ではないですし、ニュータウンとして売り出すのも個人では大変です。

新中間省略登記の売買契約は、新中間省略登記手続きに必要な特約付の第三者のための売買契約ですが、不動産の販売に関するサービスは一般の売買契約と同じです。

不動産会社との売買契約なので不動産の保証期間が2年まで延長されるので、第三者のお客様も安心して契約できます。

第三者の購入者に直接移転登記するといっても、あくまで売買契約の特約なので、不動産会社が全て代行してくれるから安心です。

中間省略登記のデメリット

決済完了まで時間がかかる

不動産の売買契約の場合、契約が成立したら決済手続きへ即移行するので、不動産の決済が非常にスムーズです。

しかし、新中間省略登記を行う契約の場合は、不動産を購入してくれるお客様が見つかってから決済手続きに入るのが一般的ですから、決済までに時間がかかります。

この点においては、不動産会社と十分に話し合って、不動産会社が承諾してくれれば先払いや期限付払いにしてもらうことも可能です。

印鑑証明や住民票等の必要書類の費用が余分にかかる

AB間での契約時には、印鑑証明・住民票等の本人確認書類を提出していると思いますが、行政の証明書には有効期間がありますので、取り直しが必要となることもあります。

また、広大な土地を分筆して販売する場合は、Cが区画数分の人数となり、その人数分の「印鑑証明・住民票等」が必要となります。

また、Bが第三者C(複数の場合あり)との契約の手続きのために必要な書類として、委任状等の署名押印に協力する手間がかかります。

中間省略登記の流れ

「新中間省略登記」までの契約の流れを次のキャストにて解説します。

300㎡の土地を持つ甲が宅地建物取引業者の乙を訪れ、土地を購入して欲しいと依頼してきた。
そこで乙は土地X購入にあたり次の提案をして、甲もこれに賛同し売買契約を締結した。

  • 分筆してニュータウンにして購入者を募ること
  • 登記関係の費用がかからない分、高値で甲の土地を購入できること
  • 新中間省略登記を利用しての売買契約とすること
広大な土地300㎡Xを売却したい売主
宅地建物取引業者
購入者A50㎡の宅地Aを購入したい買主
購入者B50㎡の宅地Bを購入したい買主
購入者C50㎡の宅地Cを購入したい買主
購入者D50㎡の宅地Dを購入したい買主
購入者E50㎡の宅地Eを購入したい買主
購入者F50㎡の宅地Fを購入したい買主

1.甲乙間で300㎡の土地Xの売買契約を締結

2.50㎡の6宅地A~Fに分筆して乙がニュータウンとして分譲開始

3.50㎡の6宅地A~Fの購入者各々と乙が売買契約を締結

4.乙と6宅地A~Fの購入者の代金決済。乙が甲との代金決済

5.甲からA~Fそれぞれの購入者へ所有権移転

中間省略登記の必要書類

甲と乙の売買契約

  • 甲乙間売買契約書(第三者のための売買契約)
  • 甲の印鑑証明書
  • 甲の住民票
  • 購入者の意思表示の書類を受領する権限を甲が乙に委任する旨の委任状

・甲に代って不動産Xの料金を受領する委任状が必要な場合もあり(契約書による)

乙と購入者の売買契約

  • 乙と購入者の売買契約書×6宅地分
    (所有者が甲であること、新中間省略登記を行い契約である事を明記)
  • 購入者の「意思確認書」を受領し甲に渡す

乙と購入者A~Fの決済手続

  • 甲の印鑑証明と住民票、乙の印鑑証明
  • 甲の購入者(購入者の名前A~F)と甲の土地X(1/6分筆分)の所有権移転に関する意思確認書を渡し、甲と購入者双方が意思確認書控えを持つ。
  • 乙指定の司法書士に甲から購入者A~Fへの所有権移転登記に必要書類を渡す

乙が甲に入金

  • 乙の印鑑証明と住民票、売買契約の金額を入金⇒乙とお客様の契約完了

購入者は甲から所有権移転の不動産移転登記完了

新中間省略登記は登記原因証明情報として、甲乙間の売買契約書、乙と購入者(A~F)の売買契約書が必要となります。

住宅ローンを利用するお客様が一般的ですから、金融機関指定の司法書士となることもあります。

司法書士は、甲と乙と購入者の権利関係を明記した書類を作成し、融資がある場合は抵当権を設定し、所有権移転登記を登記申請書類と登記完了報告書、登記のコピーを揃えて購入者に渡し、司法書士の手数料を購入者からもらいます。乙指定の司法書士の場合は乙から料金をもらいます。

4.まとめ

いかがでしたか?

不動産の登録免許税、不動産取得税等の手続きが必要ですから、どうしたら一番お得なのか、専門家に相談したいものですよね。

セカンドオピニオン的な複数の会社への相談もお勧めです。

最近では、不動産取引を合理的に行うためAIを駆使した不動産売却の新たなカタチ「JSP」もお勧めです。

優秀な不動産コンサルタント、士業との連携の深い優秀な宅地建物取引業者に相談するのが重要だともいえるでしょう。

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