借地権の基礎知識と高値で売却するポイント
借地権ってなに?
家を売却するときに調べたら借地権だったけど一体なんのことだかよく分からない。「言葉からすると借りているってことだと思うけど、そうなると自分のものじゃないの?」という疑問にわかりやすく解説していきます。
建物を建てるときには土地がなければできませんが、自分の土地がない場合には第三者の土地を借りて建てることができます。
借地権とは、建物の所有を目的に第三者の土地を借りて地代を支払い、その土地に上に自己所有の建物を建てられる権利のことを言い、賃借権と地上権の2種類があり、賃借権は更に3種類に分類されますので順番に説明していきます。
賃借権と地上権の違いとは
借地権には賃借権と地上権の一番大きな違いは土地に対する権利の強さが違います。
地上権は土地に対して強い権利を持つことになり、土地を貸す側の地主にとって不利な面が多いため日本国内の借地権はほとんど賃借権を採用しています。では具体的にどのような違いがあるか説明していきます。
譲渡・賃貸に関する地主の承諾
賃借権は第三者へ譲渡・賃貸するときに、地主の承諾が必要となりますが、地上権は地主の承諾がなくても譲渡・賃貸することが自由にできます。
登記義務
借地権者が登記を希望したときに、賃借権は地主に登記の協力義務はありませんが、地上権は登記に応じる義務があります。
地代の取り決め
賃借権は必ず地代の取り決めが必要ですが、地上権では地代を支払わない契約でも成立します。
残存期間
賃借権は残存期間を定めて期間満了の都度更新をするのに対して、地上権は永久とすることも可能です。
地上権が採用される例
地主の承諾を得る必要がなく永久に利用できる地上権がどのようなときに採用されるかと言えば鉄道や高速道路、電線の高架などで、補修や修復が必要なときに独自の判断で作業が可能になります。
賃借権の種類について
土地や建物を売買するときの借地権はほぼ賃借権となりますが、賃借権も大きく分けて旧借地権、普通借地権、定期借地権の3種類に分類されます。
借地借家法という法律が1992年(平成4年)8月1日に施行されますが、それ以前の古い法律は借地法というものした。
借地借家法ができる前の借地権を旧借地権(旧法)と言い、できた後の借地権(新法)を普通借地権や定期借地権と言います。今一度、契約書を確認して借地権が旧法と新法のどちらの契約になっているのか確認をしてみましょう。
旧法と新法の違い
旧借地法では残存期間が満了しても契約更新すれば、基本的には半永久的に土地を借り続けることができるため借地権者の権利が強く、土地の返還などで地主に不利な面があったのに対して、新法では期間の規定を設けられる定期借地権ができたことが大きなポイントです。
しかし、旧借地法の時期に契約したものは自動的に新法に切り替わることはなく、そのまま旧借地法が適用されるため、新法と旧法が混在している状況になっています。
また、新法の定期借地権は一般定期借地権、事業用定期借地権、建物譲渡特約付借地権、一時使用目的の借地権の4種類に分類されます。
旧法借地権
旧法借地権とは1992年(平成4年)7月31日以前に契約した借地権のことで、残存期間の定めがない場合は建物が老朽化して朽廃したら自動的に消滅します。
残存期間の定めがある場合は建物が朽廃しても借地権は消滅しません。建物が滅失した場合には再建築を認める規定となっていて、地主側が契約解除を求めても正当事由にはなりません。
建物の構造により堅固建物と非堅固建物の2種類に分類され、借地権設定時の残存期間に違いがあります。
契約で期間を決めた場合は法律で最短期間が強制されています。これよりも短い期間を定めた場合、その期間の定めは無効で契約期間を定めなかったことになります。
堅固建物・非堅固建物は地主との合意で変更することができます。地主が承諾しない場合、借地人に必要性があれば裁判所の決定で、契約を堅固建物を目的にするものに変更してもらうことができます。
鉄筋コンクリート造や重量鉄骨造、石造りやレンガ造り等の建物で残存期間30年、更新は30年となり、期間の定めがない場合は60年で更新は30年となります。
木造や軽量鉄骨造等の建物で残存期間20年、更新は20年となり、期間の定めがない場合は30年で更新は20年となります。
建物の種類 | 期間の定め | 残存期間 | 更新 |
堅固建物 | あり | 30年 | 30年 |
なし | 60年 | 30年 | |
非堅固建物 | あり | 20年 | 20年 |
なし | 30年 | 20年 |
普通借地権
新法の普通借地権とは1992年8月1日以降に契約した借地権で契約更新を前提としており、堅固建物・非堅固で期間の違いはありません。
建物の朽廃による契約終了の規定もなく期間満了まで契約は続きますが、建物再建を地主の承諾なく行うと借地権を失う可能性があります。また更新時に建物がなければ更新は認められません。
残存期間は30年で、それよりも長い期間を決めた場合はその期間になります。30年よりも短い期間の合意は無効で期間は30年になります。 更新に関しては1回目は20年、2回目以降は何回繰り返しても10年となります。
期間の定め | 残存期間 | 更新 1回目 | 更新 2回目以降 |
あり | 30年以上 | 20年以上 | 10年以上 |
なし | 30年 | 20年 | 10年 |
定期借地権
定期借地権とは1992年(平成4年)8月1日以降に契約した借地権で契約更新がなく、期間満了したら更地にして土地を地主に返還しなければなりません。存続期間は契約内容によって異なりますので詳しくご紹介します。
一般定期借地権
定期借地権付一戸建や定期借地権付マンション等の住宅用を目的とした定期借地権で、契約期間は50年以上と長期間の契約ということが特徴です。
事業用定期借地権
店舗や商業施設など事業用を目的とした定期借地権で、契約期間は10年以上50年未満ですが、2008年(平成20年)1月1日の法改正より前に契約したものは10年以上20年以下となります。
建物譲渡特約付借地権
契約終了しても更地にせず建物を地主が建物を買い取ることを目的とした定期借地権で、買い取りに伴い借地権は消滅します。契約期間は30年以上となります。
一時利用目的の借地権
工事現場の仮設事務所やプレハブ倉庫等で短期間の一時利用を目的とした定期借地権です。
借地権 →①地上権
→②賃借権 →①旧法
→②新法 →①普通借地権
→②定期借地権 →①普通定期借地権
→②事業用定期借地権
→③建物譲渡付借地権
→④一時利用目的の借地権
借地権のメリット・デメリット
土地の取得価格や維持コスト、その他の取り決めや売るときのことなど借地権のメリットとデメリットをまとめましたのでご紹介します。
借地権のメリット
国税庁のホームページにある路線価の借地権割合から、所有権の60~80%程度の価格で取得できるため、新築時の総額を抑えることができます。
土地の固定資産税や都市計画税等の毎年かかる税金の支払い義務は地主にあるため、借地権者にはかかりません。
借地権のデメリット
借地の賃料として地主に対して地代が必要になります。住宅地だと固定資産税年税額の3~5倍程度、商業地だと5~8倍程度が目安です。
建物を建て直したり増改築する場合や、第三者へ売却する場合などは地主の承諾が必要となります。この際には承諾料がかかり、立て直しや増改築の建て替え承諾料(増改築承諾料)は更地の3%程度、第三者へ売却するときの譲渡承諾料は借地権価格の10%程度が目安です。
購入者が見つかったときに、住宅ローンの利用を希望される方が大多数です。しかし借地権は所有権と比較した場合に、物件価格に対して60%程度が融資額の上限目安となるため、自己資金が多く必要となります。
借地権価格の算定方法とは
借地権を売買するときの価格の出し方で一般的な目安は、所有権で取引されている価格に国税庁の路線価図にある借地権割合をかけて算出する方法です。例えば所有権の取引価格が坪単価100万円で借地権割合が70%のエリアだと、100万円×70%≒借地権坪単価70万円となります。
借地権を利用して建てられた建物には、借地権割合が設定されています。これは、借地権の価値を適切に判断するために、国税庁によって設定されているスコアです。 一般には相続や贈与の際にしかチェックすることがないので「見方が分からない」という方[…]
借地権は売却できるのか?
借地権は売却することができます。大きく分けると第三者へ売却する場合と地主に売却する場合の2つがあり、それぞれのメリットデメリットがありますのでご紹介します。
第三者へ売却する場合
地主から承諾を得る必要があり、借地権価格の10%程度の譲渡承諾料が必要になります。
第三者へ売却して建物の名義変更をする場合、登記を担当する司法書士は地主からの承諾を得ていることを確認しなければなりません。そのため承諾を得た際には、地主から借地権譲渡承諾書を交付してもらいましょう。
借地権譲渡承諾書ダウンロード
地主に売却する場合
借地権価格の50%程度が価格の目安となるため、第三者へ売却に借地権割合(60~80%程度)で売却するよりも安くなってしまう事が多くあります。
地主の承諾が得られない場合は?
借地権を第三者へ売却するには地主の承諾が必要になりますが、承諾してもらえない場合は借地権を売却する事は出来ないのでしょうか?この点については裁判所が地主の代わって売却の許可を出すことができます。これを借地権譲渡に代わる許可と言います。
借地権譲渡に代わる許可が認められるには、譲渡の相手が決まっていて裁判所が許可を出すことによって地主に不利になる恐れがないこととされています。新たな借地人(借地権を買う人)が賃料(地代)を支払う能力や、建物の利用を社会的に好ましくない用途に使用しないことなどが、考慮されるポイントです。
これに対し、地主には介入権という権利があります。これは地主が裁判所に借地を買い取りたいという申し入れができる権利で、買取価格は裁判所の鑑定で決まった借地権価格の約90%が原則です。
介入権が認められると買主は購入することは出来ません。
借地権を高く売却する方法とは
借地権の場合、住宅ローンなどの借り入れが不利になる事があります。所有権だと物件価格に対して100%の融資を得られるのに対して、借地権だと60%しか融資してもらえず不足分を自己資金で準備しなければなりません。
また、固定資産税等はかからないけど、固定資産税より多額の3~5倍程度(住宅地)の地代がかかるため維持していくためのコストが多くかかってしまいます。
そのため借地権を高く売却するには、地主から底地を買い取ったり、 借地権の一部と地主の持つ底地権の一部を等価交換 したり、地主と協力して底地と借地をセットにして所有権として売却することです。
借地権を売却するための4つの方法
1.借地権を第三者へ売却
不動産会社へ借地権の購入を希望している買主を探してもらう方法です。
不動産会社はインターネット広告や販売チラシ、現地販売会など幅広く宣伝活動をして購入希望者が見つかったら売却します。売却の際には地主の譲渡承諾が必要となりますが、その他は所有権の物件と一緒の手続きとなります。
2.借地権を地主へ売却
第三者へ売却するのではなく、借地権を地主に買い取ってもらう方法です。
第三者へ売却する際の物件価格の目安は、借地権割合(60%~80%が一般的)となりますが、地主に買い取ってもらう時の目安は50%となりますので、価格は下がってしまうデメリットがありますが、譲渡承諾等の面倒な手続きがないことや短期間で売却できるメリットがあります。
3.借地権と底地権を同時売却
地主と協力して、地主の持つ底地権と借地権を一緒に売却する方法です。
底地権と借地権が一緒になることで所有権になるため、借地権のデメリットである住宅ローンの融資問題や、底地権のデメリットである自己利用ができない事などが解消されるため、それぞれが単独で売却するよりも購入者の間口が広がるため高値での売却が見込めます。
4.等価交換後に所有権として売却
地主が持つ底地権と借地権を等価交換した後、所有権として販売する方法です。
例えば、敷地面積100坪で借地権割合が60%の土地とします。等価交換することで地主が40坪(底地権割合の基準)~50坪(地主買戻し目安の基準)の所有権、借地人が50坪(地主買戻し目安を基準)~60坪(借地権割合から算出)の所有権にそれぞれ交換した後、所有権として売却することで前述した同時売却と同様に、借地権のデメリットがなくなるため高値での売却が見込めます。