この記事では『囲繞地』(いにょう)について説明していきます。日本の不動産に関する権利関係(所有する権利や賃借する権利)、法律上の制限はとても複雑です。
一つの土地を分割して売買することが出来ることや、土地とそこに立っている建物の所有者が違うこと場合があること、住んでいる土地によって建物を建てる上での制限が違うなど日本特有の不動産事情、ルールがあります。
そんな中で実際に取引する物件に関しても、様々な大きさや形状、立地などがあり、一つとして同じ物件はありません。
ルールが複雑な中で、取引されるもの(物件)についても同じものが一つのないわけですから、もちろん不動産の物件の中にも『売りやすい』、『売りにくい』物件が出てきます。
囲繞地については一見普通の土地に見えますが、隣接する土地が持つ権利上、売却がどちらかというと難しい部類に入る土地になります。
今回はその囲繞地について内容や権利関係、売却する為の必要な事前知識を説明していきます。
囲繞地(いにょうち)とは?
囲繞地とは、民法で定めのある土地の種類で、袋地を囲う土地のことを言います。一方、袋地とは周囲を土地(囲繞地)で囲われていて公道に面していない土地を言います。袋地に住んでいる方は、周囲を他人の土地(囲繞地)で囲われている為、公道に出ることができません。
それでは袋地に住んでいる方の生活が難しいので、民法上、袋地に住んでいる方は公道に出る為に他人の土地(囲繞地)を通行する権利を与えられています。
囲繞地通行権 【通行料や囲繞地所有者の拒否権】
袋地の住人が公道に出る為、囲繞地を通る権利のことを囲繞地通行権と言います。囲繞地通行権は民法に規定されている権利であり袋地所有者が当然に認められる権利ですが、周りの土地のどこを通っても良いわけではありません。
民法上、袋地所有者は囲繞地を通る権利が当然に認められる代わりに、囲われている囲繞地の所有者にとって最も損害の少ない範囲に限定して通行できると定められています。
要するに好き勝手には通行できず、周りの土地に一番迷惑の少ない通路とその範囲のみ通行できるということです。
この通行権が認められる場所や範囲に関しては、袋地や囲繞地の面積や形状の位置関係、通行者の通行の実態(目的、位置、範囲、態様)などを考慮して総合的に判断されます。
囲繞地通行権の料金
囲繞地通行に関しては、権利が認められているもののタダで通行できる訳ではありません。袋地所有者は通路となる囲繞地の所有者に通行料(償金)を支払う必要があります。
こちらの額については、民法上、特段のルールはなく、当事者同士で決めることとなっておりますが、折り合いがつかない時には、裁判所の方で決めてもらう形となります。裁判上で決められる額はその土地の価値や近隣の相場感で判断されます。
囲繞地通行権が無償になる場合
囲繞地通行権は原則として通行料がかかりますが、例外が二つあります。
一つ目が、以前から無償で通行が許可されていた通路があった場合です。前までは無償だったのにいきなり新しくルールが出来て有償になるというのは不公平なので無償利用が許されるようになっています。
二つ目が、土地の分割の結果、土地の一部を譲渡した場合です。元々、袋地がなかった土地が分割により公道に通じる土地と袋地に分かれてしまった場合にも袋地所有者は無償利用が許されています。
囲繞地通行権の拒否権
囲繞地通行権によって、自分の土地が要件に沿って通路に指定された場合、拒否する権利はあるのかということですが、結論、これは拒否できません。それは先ほども説明したように囲繞地通行権が法律上当然に認められた権利だからです。
また、予備知識になりますが、袋地に住んでいる方の土地についての権利が所有権ではなく、借地権の場合(土地を借りて家を建てている場合)、通行を拒否する囲繞地所有者に対して袋地所有者が通行権を主張するには借地権の登記が必要になります。
囲繞地を売却したい方、売却前の事前知識
囲繞地に住んでいて、実際に通路として使われている方は仕方ないこととは言え、他人が自分の土地を通行することにストレスを感じている方もいると思います。
また、自分はストレスを感じなくても、将来的に自分の土地を売却するとなったときには買い手のことを考えると心配に思われる方も多いのではないでしょうか?
冒頭でも書きましたが、囲繞地は一般的なごくごく何の問題もない土地と比べると、比較的『売りにくい』部類の土地になります。実際に囲繞地を売りに出しても、魅力を感じてくれる方というのも多くはありません。
買い手の方ももちろん人間な訳ですから、袋地の住人との関係も考える必要があります。ただ、囲繞地自体は袋地がなければ普通の土地であり、袋地などのように建築基準法上の建物を再建築できない土地ではありません。
また、不動産の場合は魅力に感じてくれる方がたくさんいたとしても、売れる方は一人に限られます。売却価格を考えればもちろん需要が多いに越したことはないのですが、楽観的に考えれば一人欲しいという方がいれば売却自体はできます。
『すぐに売りたい方』から『今すぐは考えてない方』まで様々な方がいると思いますので、自分の考えや今の状況にあった方法を見つけて頂ければと思います。ここでは囲繞地を売却する為の事前知識を書いていきます。
年間売却実績の多い大手不動産会社に依頼する
不動産の売却に関しては、仲介役の不動産がとても大切になってきます。実際に買い手を探してくるのが不動産会社になるからです。特に囲繞地は特殊な部類の物件に入るので不動産会社の提案力や営業力がものを言います。
年間の売却実績が多い会社はそれだけ様々な案件に対応してきているので、特殊な物件を扱う回数も比例して多くなります。
抱えている顧客も法人から個人まで多く抱えているため、幅広いニーズがあり、買いたいという方が見つかりやすいというメリットもあります。
街の小さな不動産会社でも売却できなくはないですが、少人数の会社ですと、賃貸がメインでそもそも売買に力を入れていない場合や少人数であるが故に薄利でも商売になるので、相場よりも安く売却する形になりがちです。
営業の方のモチベーションについても実績の多い大手不動産の方が意欲的である傾向にあります。自分の考えをしっかり伝えて買い手を探してもらいましょう。
また、大手不動産の場合、資金力がありますので、そもそも自分の物件を買い取ってくれる可能性もあります。再建築ができない物件ですとかなり厳しくなりますが、囲繞地の場合ですと、建物の再建築ができない訳ではないので、前向きに検討してもらえるかも知れません。
特に売りに急いでいて、低価格でも売却してしまいたい方に関してはむしろ買い取りを依頼した方が良い場合もあります。不動産会社に直接売りますので仲介手数料もかかりません。一つの選択肢として頭に入れておきましょう。
袋地所有者に売る、若しくは袋地所有者と共同で売却する
これは、そもそも自分の土地を隣接する袋地の所有者に売ってしまうという方法と袋地所有者と共同して売却するという方法です。
まず、前者の袋地所有者に売ってしまうという方法は袋地所有者に売ることで、土地が一つになるので、袋地であった土地が何の問題もない土地になります。
袋地所有者にとっても今までのようにお金を払って他人の土地を通行することもなくなりますし、建物の再建築ができないという制限もなくなります。
土地の面積が大きくなって、法律上の制限が一切なくなる訳なので、もちろんですが、土地の資産価値は一気に上がります。
あくまで袋地所有者にその希望があって資金面でも問題なければの話になりますが、逆に資金に余裕があれば高い価格で買い取ってくれる可能性もありますので、提案してみる価値は十分にあると思います。
次に、袋地所有者と共同で売却する方法ですが、これは共同して同時に売りに出して、同じ買い手に二つの土地を一気に買い取ってもらうということです。
こちらに関して先ほどの袋地所有者に売却する場合と共通して言えるのが、土地を一つにしてしまうということです。
一つにすることで土地に対する制限が一切なくなりますので、土地の購入者からしてもメリットがあります。売る側からしても双方、自分の土地だけで売却する時に比べると価値が上がる可能性が高いので、メリットは非常に大きいです。
袋地所有者にとってみれば、今まで売却に困るというのは明らかであった訳ですので、こちらから提案すれば、前向きに検討してくれる可能性は低くないでしょう。
前者も後者もハードルは比較的高く、お互いに信頼関係が出来ていないと難しい面はありますが、メリットは大きいので、売却を考えるタイミングで一度声をかけてみては如何でしょうか?
通行料を受け取りたい方に売却する
不動産投資をしていて所有している共同住宅の一部を自宅にしている方に近いような感覚ですが、自分の土地を使用されても、料金が発生するのであれば、問題ないと考える人も一定数います。
そういった方は、通常の住宅など収益を生まないものにむしろお金をかけたくないと考える傾向にあります。
自分の住宅ももっておきたいと思ったタイミングであれば前向きに考えてもらえるかも知れません。多くの顧客を抱える不動産会社であれば、合致する考えの方がいるかも知れません。
特に、通行料を割としっかりもらっている方は一度、営業さんに提案してみては如何でしょうか?
まとめ
今回は囲繞地について書いてきましたが、如何でしたでしょうか。もし、囲繞地に住んでいる方で今まさに売却に困っている方がいれば少しは売却のイメージもついてきたのではないでしょうか?
実際に昔からそういった土地に住んでいる方でも売却を考えて初めて問題に気づく場合も多いです。
昔から先祖代々、同じ土地に住んでいる方に関しては、仮に通行路として他人が使用していてもそれが日常になっているので、何も気にしなかったという人もいると思います。
今回の記事を読んで、囲繞地に住んでいる方はもちろん、そうではない方も自分が住んでいる土地に関して関心を持つ機会となれば嬉しく思います。