マイホームを売却したことにより生じた所得を「譲渡所得」といいます。譲渡所得に対しては、他の所得と分離して「所得税」と「住民税」が課税されます。所得税等の税金は、譲渡所得がプラス(譲渡益)の場合には課税されますが、マイナス(譲渡損)の場合には課税されることはありません。
譲渡益・譲渡損に関しては、それぞれ特例が設けてあり、うまく活用することによって税金を安くすることができます。そこでこの記事では、「譲渡所得」のしくみと5つの特例を利用した節税法について詳しく説明します。
譲渡所得の計算方法
前述したとおり、譲渡所得は、給与所得や不動産所得などとは分離して所得税と住民税が課税されます。
マイホームを売却した際には別途、譲渡所得を計算し、所得税等を把握しなければなりません。
譲渡所得の計算
譲渡所得 = 売却価格 - (取得費 + 譲渡費用)
【売却価格】売却代金 ± 固定資産税・都市計画税の精算金
【取得費】以下の①・②のうち、いずれか大きい金額の方を使います。
① (土地建物の購入代金 + 購入時の税金 + 仲介手数料等)- 建物の減価償却費
② 売却代金 × 5%
【譲渡費用】売却時にかかった費用で、主に以下のものです。
・仲介手数料
・印紙税
・測量・境界確定に要した費用
税額の計算
税額 = 課税譲渡所得 × 税率(所得税・住民税)
【課税譲渡所得】・譲渡所得 - 特別控除(※)
※特別控除は、次の「マイホームを売った時の5つの特例」で説明します
短期譲渡所得と長期譲渡所得
譲渡益に対する税率は、譲渡した年の1月1日現在において、所有期間が5年を超えているか否かによって異なります。
所有期間 | 譲渡所得の区分 | 所得税 | 住民税 |
5年以下 | 短期譲渡所得 | 30.63% | 9% |
5年超 | 長期譲渡所得 | 15.315% | 5% |
マイホームを売った時の5つの特例
マイホームを売った時の特例を、譲渡益が出た場合、譲渡損が出た場合で分けて解説します。譲渡益が出た場合は一定の要件を満たすと以下の特例を受けることができます。
譲渡益が出た時の特例
3,000万円控除
マイホームを売却した場合に、譲渡所得から特別控除として最高3,000万円を差し引くことができる特例です。3,000万円特別控除の特例は譲渡所得から3,000万円を控除し、その残額に対して課税されます。
したがって譲渡所得が3000万円以下の場合、所得税等を支払う必要はありません。
(譲渡所得 - 3,000万円)× 税率 = 税額
・3年に1度しか適用できません
・住宅ローン控除との重複適用はできません
・特定居住用財産の買換え特例、居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除、特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除、これら3つの特例とも重複適用できません
10年超所有軽減税率の特例
10年超所有しているマイホームを売却した場合、長期譲渡所得に対する税率が軽減される特例です。
所有期間 | 長期譲渡所得 | 所得税 | 住民税 |
10年超 | 6,000万円以下の部分 | 10.21% | 4% |
6,000万円超の部分 | 15.315% | 5% |
6,000万円以下の部分については、先程の長期譲渡所得(5年超)の税率と比べて低くなっていることがわかります。なお、要件を満たせば3,000万円特別控除の特例と重複適用が可能です。
3,500万円で購入したマンションを3,700万円で売却したケース
所有期間を6年、マイホーム売却時の特例は対象外とします。
・売却価格 :3,700万円
・購入価格 :3,500万円
・譲渡費用 :170万円※概算
・購入時の費用:80万円※概算
・減価償却費 :186万円
※3,500万円のマンションの内、建物価格を2,300万円として計算
(2,300万円×0.9×0.015×6年=186万円)
【課税譲渡所得の計算】
売却価格3,700万円-(取得費3,394万円+譲渡費用170万円) =課税譲渡所得136万円
※取得費:(購入価格3,500万円+購入時の費用80万円)-減価償却費186万円 =3,394万円
【税額の計算】
所有期間が6年ですので、長期譲渡所得の所得税・住民税20.315%が適用されます
課税譲渡所得136万円×20.315%=27万6,200円(所得税・住民税) ※100円未満切り捨て
特定居住用財産の買換え特例
マイホームを売って次のマイホームに買い替えた時は一定の要件のもと、譲渡益への課税を将来に繰り延べることができる特例です。ただし、あくまでも課税の繰り延べですので、譲渡益が非課税になるわけではありません。
例えば、4,000万円で購入したマイホームを5,000万円で売却し、6,500万円のマイホームに買い替えた場合を考えます。
本来ならば、1,000万円の譲渡益に対して課税されます。ただし、この特例が適用されると、新たなマイホームを売却する時まで譲渡益に対する課税が繰り延べられます。
【売却するマイホームの要件】
・土地・建物の所有期間がともに10年超であること
・売却するマイホームの居住期間が10年以上であること
・売却するマイホームの価格が1億円以下であること
【買換え先の要件】
・土地の面積500㎡以下、建物の床面積50㎡以上であること
・中古の住宅は築後25年以内または新耐震基準に適合しているもの、
もしくは既存住宅売買瑕疵保険に加入している一定のものであること
【注意点】
・住宅ローン控除との重複適用はできません
・3,000万円特別控除、10年超所有軽減税率の特例との重複適用もできません
譲渡損が出た時の特例
譲渡損が出た場合にも、一定の要件を満たすと以下の特例を受けることができます。
居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除
マイホームを売却して、新たに別のマイホームを購入した場合の特例です。前のマイホーム売却により譲渡損が出た時は、給与所得などの他の所得から控除(損益通算)することができます。さらに、損益通算をしても控除しきれなかった譲渡損については翌年以降3年間繰り越して控除(繰越控除)することができます。
【売却するマイホームの要件】
・所有期間が5年超であること
・一定の譲渡損失があること
ただし、土地の譲渡損失が500㎡以下までが対象
・所得金額が3,000万円以下であること
【買換え先の要件】
・建物の床面積50㎡以上であること
・マイホームを売却した年の前年1月1日から翌年12月31日までに
新しいマイホームを購入すること
・新しいマイホームには、購入した年の翌年12月31日までに居住すること
・返済期間10年以上の住宅ローンを借りて、新しいマイホームを購入すること
【注意点】
・住宅ローン控除との併用可能です
・3,000万円特別控除、10年超所有軽減税率の特例との重複適用はできません
・特定居住用財産の買換え特例、特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除との重複適用もできません
特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除
住宅ローンが残っているマイホームを、住宅ローン残高を下回る価格で売却して譲渡損が出た時は、その譲渡損を給与所得などの他の所得から控除(損益通算)することができます。さらに、損益通算をしても控除しきれなかった譲渡損については翌年以降3年間繰り越して控除(繰越控除)することができます。
【売却するマイホームの要件】
・所有期間が5年超であること
・一定の譲渡損失があること
ただし、土地の譲渡損失が500㎡以下までが対象
・所得金額が3,000万円以下であること
【買換え先の要件】
・この特例は新たにマイホームを購入しない場合であっても適用されます。
【注意点】
・住宅ローン控除との併用可能です
・3,000万円特別控除、10年超所有軽減税率の特例との重複適用はできません
・特定居住用財産の買換え特例、居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除との重複適用もできません
マイホーム売却後の確定申告を忘れずに
マイホーム売却後は、確定申告を忘れずに行いましょう。譲渡益が出た時は当然ですが、譲渡損が出た時も節税になる場合がありますので忘れずに申告しましょう。
以下の手順で行います。
・譲渡所得の算出、所得税・住民税の計算
・必要書類の準備
・確定申告書の作成
・税務署へ提出
譲渡所得の算出、所得税・住民税の計算
まずは譲渡所得を求め、これに税率をかけて所得税・住民税を計算します。その際、5つの特例の中で適用できるものがあれば、忘れずに活用してください。
必要書類の準備
次に確定申告に必要な書類を準備します。自分で用意するもの、国税庁のホームページより入手するものがあります。
【自分で用意するもの】
・不動産購入時の売買契約書
・不動産売却時の売買契約書
・印紙代・仲介手数料・固定資産税の精算金などの領収書
・登記事項証明書
・住民票(除票) 等
【国税庁のホームページより入手するもの】
・譲渡所得の内訳書
・確定申告書B
・確定申告書第三表(分離課税用の申告書)
なお、5つの特例のいずれかを受ける場合、別途書類が必要になります。詳しくは国税庁のホームページを確認してください。
確定申告書の作成
必要書類が準備できたら、以下の書類に必要事項を記入していきます。国税庁のホームページに記入方法が解説されています。
・譲渡所得の内訳書
・確定申告書B
・確定申告書第三表(分離課税用の申告書)
税務署へ提出
譲渡所得の確定申告の期間は、マイホームを売却した翌年の2月16日から3月15日です。必要書類を管轄の税務署に提出します。
まとめ
譲渡所得に関しては、取得費や譲渡費用の計算が複雑で難しいかもしれません。税務署の無料相談を利用したり、税理士に依頼するとよいでしょう。
5つの特例についても、内容をしっかりと理解して上手に活用してください。今回の記事が、みなさんの参考になれば幸いです。