借地上に建物を所有している場合、建物に住まなくなったら更地にして地主へ土地を返さなければならないと考えている方がたくさんおられます。
更地にするにもお金がかかりますし、負担が重くなりますよね?
実は借地権には価値があり売却できるので、必ずしも更地にして返還する必要はありません。
今回は借地権を売却する方法や地主の承諾を得られない場合の対処方法を解説します。
借地上に建物を所有していて契約を終わらせる方法について心配になっている方は、ぜひ参考にしてみてください。
そもそも借地権とは
借地権とは、建物所有を目的として土地を借りる権利です。借地契約や賃貸借契約によって他人の土地を借り、その土地上に自分名義の建物を建てて利用します。
借地上の建物は自分名義なので自由に使えます。居住しても事業用として使ってもかまいません。借地権者には「借地権」という権利が認められます。借地権にも独立した経済的な価値があります。
評価額はエリアなどの条件によって異なりますが、完全な所有権の3割~9割程度の価額になるのが通常です。借地権は相続時にも「遺産」として評価されますし「売却」も可能です。
借地権は売れる
他人から土地を借りて建物を建てて住んでいる方は、契約を終了するときに「更地にして返さなければならない」と思い込んでいるケースが少なくありません。
しかし、まだ住める家をわざわざ壊して返すのは過大な負担となりますし、社会全体としても経済的な損失といえるでしょう。借地権には独立した経済的価値が認められるので、第三者へ売却できます。
土地上に家が残っているならば、借地権付きの家を他人へ売却し、買主に借地契約を引き継いでもらえるということです。
その場合、売主は契約関係から外れるので地主へ地代を払う必要がなくなり、その後は買主が地代を払います。建物は買主名義になり、固定資産税も買主が払っていくことになります。
このように、借地権を売却すると建物を壊さなくても借地契約から離れて建物の管理も一切しなくて良くなります。売却金も得られるので大きなメリットがあるといえるでしょう。
借地権を売却する流れ
借地権を売却するには、以下のような流れで手続きを進めます。
1.買い受け人を探す
まずは借地権の買主を探さねばなりません。現在の借地契約の条件を伝え、建物の価額を含めて納得してもらえる買い主を見つけましょう。不動産会社を通じて探すのが良いでしょう。
2.地主の承諾を取り付ける
借地権は、借地人の独断で売却できません。必ず地主の承諾が必要です。承諾なしに勝手に所有権移転登記をすると、借地契約を解約されてしまうおそれもあるので絶対に行ってはいけません。必ず売買契約を進める前に地主の承諾を取り付けましょう。
買主がどういった相手なのかを説明し、特に不利益がないことを示して説得してみてください。承諾してもらえたら、書面で承諾書を作成してもらいましょう。口頭では、後で「承諾していない」などと言われてトラブルになる可能性があります。
3.借地権の売買契約を締結する
地主の承諾を取り付けられたら、借地権の買主との間で借地権つき建物の売買契約を締結しましょう。
4.決済や所有権移転登記を行う
契約後、代金決済や建物の所有権移転登記を行います。
5.借地契約の引継ぎを行う
建物の所有権を移転したら、借地契約の引継ぎを行います。地主と新たに借主になった買主との間で借地契約書を作り直してもらうと良いでしょう。
その後は地主と買主との契約関係が始まるので、売主は借地契約や建物に一切関与する必要がなくなります。
承諾が得られない場合の対策
借地権を売却するには、必ず地主の承諾が必要です。もしも地主が承諾しない場合には、どうすれば良いのでしょうか?
お勧めの方法をご紹介します。
同時売却
1つ目は同時売却です。同時売却とは、借地権つき建物と底地を同時に売却する方法です。つまり地主と借地人が協力して、底地と建物をまとめて売却するのです。
同時売却すると、高値で売りやすい
同時売却すると、「借地権」「底地」を別々に売るよりも買主にとって利便性が高まります。
借地権も底地も、単独では不完全な権利です。借地権の場合、地主への地代支払いが必要ですし自由に売却できません。底地の場合、土地上に人の建物が建っているので自分の都合で利用できません。
同時売却であれば、買主はこうした制限のない「完全な所有権」を入手できるので、大きなメリットを得られます。よってバラバラに売るよりも高額な価額がつくケースが多くなっています。
同時売却すると、借地権者にも地主にも大きなお金が入ってくるメリットがあります。「このまま借地契約を続けて細かく地代を受け取り続けるより、これを機会に同時売却した方が得になる」と言って地主を説得してみましょう。そうすれば地主も考えを変えて同時売却へ向けて動いてくれる可能性があります。
訴訟を起こす
同時売却の話を持ちかけても、地主がどうしても納得しないケースがあるものです。
その場合、訴訟(裁判)で解決するしかありません。
借地権が譲渡されても地主に特段の不利益が及ぶわけでもないのに地主が承諾しない場合、裁判所が「借地権譲渡承諾に代わる許可」を出してくれます。裁判所による許可があれば、地主が拒否していても合法的に借地権を譲渡できます。
裁判所が借地権譲渡承諾に代わる許可を出すのは「借地権譲渡を認めても地主に不利益が及ばない場合」です。
買主に地代の支払能力がある
買主が社会的に問題のある利用方法を予定していない
(暴力団関係者などの場合、許可されない可能性が高くなります)
最低限、上記の条件を満たす必要があるでしょう。
承諾料について
地主の承諾に代わる許可を求める訴訟で裁判所が許可を出すときには、承諾料の支払いが必要となるケースが多数です。承諾料とは、地主に借地権譲渡を認めてもらうための「名義書換料」のようなお金です。
裁判所は不動産鑑定士の意見などを参考に承諾料を決定しますが、相場としては「借地権価額の1割程度」となります。
地主が買い戻す「介入権」が認められる
借地権譲渡承諾に代わる許可の裁判が起こされたとき、地主がどうしても納得できなければ自分で借地権付き建物を買い取る権利が認められます。これを「介入権」といいます。
介入権を行使されると、裁判所の定める価額で借地権付き建物を地主に売却することになります。
介入権価額はケースによって大きく異なる
介入権が行使されたときの建物買取価額は、不動産鑑定士や有識者、弁護士などからなる「鑑定委員」が鑑定を行って作成する意見書にもとづいて決まります。
具体的な金額は、そもそもの借地権価額や建物自体の価値、建物に賃借人がいるかどうかなどの要素によって大きく変わってきます。
一概にはいえないので、事前に鑑定委員による鑑定額を予想するのは困難です。
自分たちで話し合って買取をする場合の相場
一方、裁判ではなく自分たちで話し合って地主が建物の買取を行うときには、相場があります。
地主側が提案する場合には借地権価額の60~70%程度、借地権者から提案する場合には更地価額の50%程度とするケースが多くなっています。話し合いで解決する場合には参考にしてみてください。
借地契約で介入権行使が認められなかった裁判例
最近の裁判例で、地主による介入権が認められなかったケースがあります。
それは、借地契約において「無条件で借地権譲渡を承諾する」という特約を定めていた事例です(東京高裁平成30年10月24日)。
つまり、当初に借地契約を締結するとき、「借地権譲渡に地主の承諾は不要」と定めておけば地主の承諾なしに借地権を譲渡できて、地主から介入権を行使されることもない、ということです。
将来借地権を売却する予定があるなら、当初契約時にこういった特約を入れておくと役立つでしょう。
無条件で借地権譲渡特約あり地主の介入権の行使を認めなかった事例
借地権者が見つけた買主より地主が提案した価格が低い場合
地主には介入権が認められるので、借地権者が見つけた買主に売りたくない場合には地主自身が自ら借地権付き建物を買い取れます。
地主による提示金額が買主の払う予定金額より低くても、地主が介入権を行使した以上は地主へ売らなければならないのでしょうか?
そういうわけではありません。そもそも介入権は借地権者が「借地権譲渡承諾に代わる許可」の裁判を起こしたときに地主に認められる権利です。裁判で地主が介入権を行使すると、裁判所が介入権による買取価額を決定します。地主が自由に価額設定できるわけではありません。
地主の提案額が低くて納得できないなら地主に売る必要はありません。訴訟(借地権譲渡承諾に代わる許可を求める裁判)」を起こして裁判所に価額決定してもらいましょう。
借地権を売却する際の注意点
借地権を第三者へ売却するとき、以下のようなことに注意しましょう。
1.建物を解体してはならない
まず、建物を解体してはいけません。
「更地の方が買主に都合が良いのでは?」などと考えて建物を壊してしまうと、借地権自身が消滅してしまいます。建物が壊れた時点で借地契約は終了するからです。消滅した権利は売れません。また無駄な解体費用がかかり、経済的にも大きな損失となるでしょう。
借地権を売りたいなら「建物を残した状態」で買主を探しましょう。
2.地代を滞納してはいけない
地代の滞納にも注意が必要です。地代を長期滞納すると、地主から借地契約を解除されてしまうからです。契約を解除されたら建物を土地上に維持する権利がなくなるので、建物は強制的に取り壊されます。もちろん借地権を売るのも不可能となってしまいます。
借地権を売りたいなら、たとえ地主と揉め事になって気分が悪くても、必ず地代だけはきちんと支払いましょう。
3.無断売却しても、買主には建物買取請求権が認められる
借地権者が地主の承諾も裁判所で承諾に代わる許可も得ないまま第三者へ建物を売却してしまった場合、買主は借地権を引き継げません。そうだとすると、買主は建物を収去して土地を地主に返すしかないのでしょうか?
実は法律は、こういったケースで買主を保護する規定をおいています。それは「建物買取請求権」です。つまり買主は地主へ建物を買い取るよう請求できるのです。
※建物買取請求権に関してはこちらを参照ください。
借地の建物買取請求権を徹底解説
価額は裁判所の定める正当な価額となります。
このように、万が一地主の許可無しに売ってしまったとしても、買主は一定程度まで保護を受けられるので知識として知っておきましょう。
借地契約を終了したいなら借地権を売却
借地契約を終わらせたい場合、建物が使える状態なら更地にして地主に返還するより第三者へ売った方が大きなメリットを得られます。建物も活かせますし解体費用も不要で売却金が手元に入ってきます。
まずは一度、不動産会社に相談して借地権付き建物の買主を探してみてください。