「借地権は、契約満期まで消滅することはない」と思っていませんか?借地権についての法律は平成4年に大改正されました。
この大改正の前の借地借家法に則って契約をした借地契約を「旧法時代の契約」ということにします。
特に注意が必要なのは、この旧法時代の借地契約です。新法が制定されても旧法時代の契約は旧法がそのまま適用されるからです。
では、どういったときに「借主が知らないうちに突然の借地権の消滅や解除」が生じてしまう可能性があるのか解説していきます。
旧法時代の契約の要注意点
借地権消滅・解除について旧法と新法の違い
旧法借地借家法には「借地契約の期間満了前に建物が朽廃したときには借地権は消滅する」という項目がありましたが、新法ではこの項目は削除されました。
そのため、借地借家法改正(平成4年8月1日)以降の借地契約に於いて、特約によって「借地契約の期間満了前に建物が朽廃したときには借地権は消滅する」という項目を追加しても無効となります。
一方、平成4年7月末までの契約では旧法が適用されてしまいます。
旧法時代の借地権の契約期間は、木造の場合は最低20年(法定30年)、マンションの場合は最低30年(法定60年)ですから、木造家屋の場合だと平成4年(1992年)6月に借地契約をしたとして、令和4(2022年)年6月に契約満了です。
新法の場合は契約期間は30年以上の契約は自由設定とされます。そこで、早急に対策を考えないといけないのは旧法の借地契約を結んでいる方です。
旧法で契約期間満了した場合、更新するか契約を解除するかの話し合いとなりますが、建物の増改築には地主の許可が必要です。
余談ですが、地主の許可を得て増改築したのに一方的に契約解除されては困ってしまいます。そんな時は「建物買取請求権を地主に要求できる」という事を以下の記事で解説しました。
借地権契約を解約するときは、更地にして戻さないといけないと思っている方が多いのではないでしょうか。 そんなふうに思い込んでしまっている方は、地主から借地の返還を求められて、建物の解体・撤去処分にかかる費用(200~500万円程)の出費[…]
契約満了前に建物が朽ち果てた場合は?
旧法の場合は、契約期間満了前でも建物が朽ち果てたら契約は消滅します。そもそも借地権は、建物を建てて住むために設定されている権利です。
その建物が朽ち果てて住むことができなくなった場合は、借地権の意味をなさなくなるというわけですが、「朽ち果てる」とはどういう状態なのでしょうか?
築年数が古くて老朽化していても、人が住める環境の場合は旧借地法「荒廃(朽ち果てる)」とは言わず、判例についてなかなか「朽廃」と言う判断にはなりません。
今の家に比べて昭和の時代に建てられた家は、世代を超えて住むことを考えて建てられていたので、一度もリフォームをしなくても、100年の耐久性を誇る家が沢山ありました。
いわば多くの家が「職人の家」だったわけです。
ですから、一般的に旧法で30年契約の借地の木造戸建の場合、契約を満了しても即借地権消滅や契約解除は成立しません。
家の価値が残っているような場合に、更地にして借地を返還するというのは、家の市場価値を無にするようなものですから、そのような事を法は望みません。
そこで家がまだ住める場合、借地権の契約満了によって地主が一方的に契約を解除したい場合は、借地人は地主に対して建物買取請求権を行使できるのです。
ですから、旧法で契約満了したからといって即立ち退きはあり得ませんので専門家に相談したり、地主とよく協議の上で借地権契約を更新するのか、または建物買取請求権を行使するか交渉することをお勧めします。
建物が消失したらどうなるの?
借地権の存在意義は、家を持ちたいけど土地を持たない人のために土地が余ってる地主が土地を貸したことが始まりです。
口約束で代々受け継がれることで成立していた時代もありましたが、親の口約束が、親が亡くなった後に相続人となった子供に受け継がれない時代に突入し、契約書によって権利を主張する習慣になって、さらに法が整備されたという経緯で現代に至ります。
そして、次のことが借地人の条件として契約書が明記しています。
借地人は底地に建物を登記した所有者である
建物の登記によって他者に対抗できる
建物を建てただけではなく、建物を登記することで借地の建物の所有者として他者に対抗できます。
建物が消失したら登記も消える
ところが、建物が火事で全焼してしまったり、大震災の津波で流されてしまったり、竜巻で飛ばされてしまったり、とにかく建物が消失してしまった場合はどうなるのでしょう。
建物が無くなってしまったら登記も消えます。すると契約は生きていても、地主が他の人と契約してしまったときに他者に対抗できる登記がありません。
建物が消失したら、何によって対抗すれば良いのか?
「対抗」とは「この借地の建物の住人(借地人)です」と借地権を自分のものだと他人に主張することです。
しかし、建物は消失してしまった場合、登記する建物がないのでこの対抗ができなくなります。もしかしたら、あなたの建物消失を機に地主が他の人と借地契約するかもしれません。
そんなときに対抗手段が無いのは理不尽です。通常建物が消失したらその土地に建物を再建築しようとするときに借地権が消滅してしまったら大変です。
借地人のために登記する建物が消失してしまった時に登記に代わる対抗要件があるので紹介します。
戦争映画で、大空襲の後に家が燃えてしまってもそこに看板を立てて家族や知人が訪ねて来たときに消息を知らせる看板が立っているのを見たことがありませんか?
「借地健太郎 現在○○に家族全員身を寄せている」等が書かれた看板です。
そんな感じで、「借地人 借地権太郎は、この場所に家を建てます」という看板を立てたりして、しっかりと「借地人が建物を再建します」と言う意思表示を誰にでもわかるよう掲示することで、建物を再建して再投資するまでの臨時登記とするのです。
そもそも、法務局の不動産登記は所有者を公表するものです。
だから、その公表方法が法務局では無く「土地の上に看板等を立てて掲示しておく」と言う方法になっただけですが、第三者への「この土地は借地太郎が家を建てる借地だ!」と土地を見に来た全ての人に宣言していることになります。
但し、これはあくまで臨時処置で期限が法で定められており期間は建物を消失して2年です。
2年間の間に建物の登記ができれば良いのです。あくまで借地は建物を建てる人に貸す土地ですので2年経っても建物を建てないような人は、建物を建てる意思が無い者と判断されても仕方がありません。
そのため、2年を超えたら借地権を消滅させられてしまう可能性があります。
但し、事情があって債権まで2年以上かかる場合は、地主に相談して地主が承諾した場合はこの限りではありません。
契約期間内に建物消失したとき再建築に地主の許可は必要?
先に解説したように、天災や火災・人災によって建物が本人の意思に反して建物が消失してしまった場合、火災保険や第三者の賠償によって、あるいは不運にも保険が利かない場合は自費で住まいを確保するために建物を再建するでしょう。そして地主は、借地人がその土地に建物を建てて住むために借地人に土地を貸しているのです。
善意の借地人の不運な建物消失は借地権を法が守る
これらの理由で契約の期間内に建物を消失してしまい、建物を再建する場合は地主の許可は必要ありません。しかし、通常の人間関係が地主と借地人の間に生じている場合は、借地人は地主に家を消失してしまったことや家を再建することぐらいは報告するでしょう。
その場合、通常は再建が許されるのが人情というものです。家が消失したから借地契約解除なんて、家を消失した借地人にとって泣きっ面に蜂のようなひどい話を法は認めません。
だから、借地人の建物消失を理由に2年以内は地主の契約解除は法が認めません。そして、契約期間内の建物消失後の再建築は地主の許可は必要ありません。
悪意の借地人には法は手を貸さない!契約解除もあり
信義則に反して、法の穴を利用するような悪意がある借地人は例外です。
例えば、契約期間満了時の買取り請求目的の放火、火災保険金名義の借地人の人為的な行為による消失、あるいは借地料の滞納、借地の転貸し等、契約書に反する行為をしていたような悪意のある借地人を法は守ってくれません。
そのような場合、地主がそのことを立証し、借地契約を突然解除することも合法なのです。
契約更新後に建物消失したとき再建築に地主の許可は必要?
借地権更新後に、天災を含めて不幸な事情で建物を消失した場合、家の再建築には地主の承諾が必要です。もし地主が承諾してくれない場合は争う又は諦めるか2つの方法しかありません。
裁判所に再建築の承諾を地主の代わりにしてもらう(代諾許可)訴えを起こす。
借地権を終了する
裁判所の代諾許可について
裁判所は、借地人が建物消失して今後再建しようとしている借地人が、借地料を支払い続ける経済力があるかどうかも審議します。但し、一般的に居住用に利用していた建物を再建できる経済力があり、不運にも家を消失する前に契約通りに借地料を支払い、契約を遵守していた借地人なら裁判所は文句なしで許可証が出ます。
また、裁判所が代諾許可を出す場合も料金がかかります。承諾料に相当する金額はおおよそ更地価格の3~5%が一般的です。
しかし、家を消失するということは財産を失っている可能性もありますので、そのような場合は裁判所も許可を出しません。裁判所の許可も承諾料がかかりますので契約解除が最善の策の場合があります。
建物消失したとき再建築に地主の許可がでた後は
天災を含み建物が消失した場合は、建物再建築の申請を地主に送ります。地主の返答が無くても、地主からの意義が2ヶ月以内に無い場合は事務士が了承したものと判断し、建物再建の工事を開始できます。
契約延期(契約期間のリセット)ができる
再建築したのに直ぐに契約期間満了となっては理不尽です。だから、建物再築の許可を地主から得た場合はその許可を得た日から20年以上となるよう契約満了が延期されます。
しかし地主との関係が良好でない場合は、契約の延期や契約書の変更をしてくれないかもしれません。そもそも、再建の申請をもらっていない等の主張をされるかもしれませんので、契約満期を延長してくれそうに無い場合は内容証明で再建のお知らせをしておきましょう。
但し、定期借地の場合は例外です。初めから決まった期間の借地なのですから再建後の契約延期はありませんので注意しましょう。
地代の消滅時効は5年
借地権や地主の権利は相続できます。このような場合、相続人は借地である事を知らなかったり地主である事を知らなかったりすることもあります。
例えば契約書を作成していない口約束の契約だったりする事もあったり、契約書がある場所を知らなかったりもします。このような場合、借地人から地代が支払われなかったり請求しなかったりする可能性もあります。
ここで覚えておくべき事は「借地代」の請求権は5年で消滅します。
だから5年間、何の請求もないまま時が経過して、その後に地主が借地代を請求してきても、借地人は支払わなくても良いのです。
但し、口頭でも手紙でもメールでも、とにかく1度でも借地料の請求をすれば、この消滅時効はリセットされます。
相続の場合でも、地主の元に固定資産税の請求が為されます。だから例え相続でも、地主が5年間も自分が貸している借地の存在を知らないまま過ごすようなことは無いと言っても過言ではありません。
1回でも借地料の請求や問い合わせがあったら、そこで消滅時効の時効の換算はリセットされます。そもそも借地の存在に気付いたとき、地主に借地料の滞納期間が長ければ長いほど未払いの借地料の請求とともに、契約解除の連絡が来る可能性が大でしょう。
まとめ
いかがでしたか?地主と借地人の関係は良好である事が前提で成り立っている契約です。
そのため地主との契約に違反するような、転貸や借地料滞納などがあると「もっと善良な借地人に貸せる」と地主が思っても仕方ないでしょう。
つまり、悪意の借地人の建物消失は気の毒ではありますが、地主にとってはチャンス到来!でもあります。そういった場合は、建物が消失したら即契約解除となると思いましょう。
一方、善意の借地人の建物が消失した場合、地主との関係が良好なら法の力を借りずとも話し合いで成立するのが理想です。
そうでない場合は、法律を知ることでお互いの権利を守ることができますので、契約にないようなこと、あるいは契約に反するような困った出来事が起った場合は、慌てずに即専門家に相談しましょう。