親や祖父母等、親族が死亡して一定の遺産があれば法定相続人の間で相続が発生します。そして財産を相続したときにかかる税金が相続税です。
では、相続税とはどのように計算するのでしょうか?また、誰がどのような条件の下でどのぐらいの相続税を納める必要があるのでしょうか?
本記事では、相続税の計算方法と、相続税を納めるときの判断基準になる「基礎控除」について事例も入れて詳細解説します。
相続税算出のための相続財産課税価額の出し方
相続税を計算するにはまず、その計算の基礎となる相続財産の課税価格を出す必要があります。以下がその相続財産課税価額を出すためのプロセスです。
上記のプロセスをひとつにまとめた算式が以下になります。
【相続財産課税価額の計算式】
=(相続により取得した財産価額+相続時精算課税に係る贈与財産価額+相続開始前3年以内の贈与財産価額)-(債務+葬式費用+非課税財産)
そして計算の結果、正味遺産額が基礎控除額を超えなかった場合、相続税は掛かりません。
一方、正味遺産額が基礎控除額を超えたときには、その超えた額を相続に係る課税価額として相続税を計算し、税務署に申告して相続税を納める義務が発生します。
(※1)非課税財産とは、以下の4種類をいう
- 生命保険金のうち、以下の額まで…500万円×法定相続人数
- 死亡退職金のうち、以下の額まで…500万円×法定相続人数
- 墓、仏壇、祭具など
- 国や地方公共団体、特定公益法人に寄付をした財産
(※2)相続税の計算上、故人が亡くなる前、3年以内に行われた生前贈与はなかったこととされてしまうルール 参照先:国税庁 財産を相続したとき
基礎控除とは? 法定相続人とは?
相続税における基礎控除とは、相続税が掛からない範囲の遺産額のことをいいます。平成27年1月1日以降、現在までの基礎控除額の計算式は以下の通りです。
たとえば、夫が亡くなり、妻と子供2名が残ったと仮定します。亡くなった夫の遺産額が4,000万円とすると、その場合の基礎控除額はいくらになるでしょうか?
基礎控除額は3,000万円+(600万円×3名)=4,800万円となり、この場合、遺産総額が基礎控除額を超えない(4,000万円<4,800万円)ので、相続税は掛からない計算になり、もちろん税務署への申告も不要です。
一方、亡くなった夫の遺産額が1億円とすると、その場合の遺産総額から基礎控除額を引いた遺産額は5,200万円となり、その遺産額に対して相続税を計算して税務署への申告及び納税が必要となります。
法定相続人数の出し方
次は法定相続人の数の出し方についてです。法定相続人とは、民法の規定に基づき故人の遺産を正式に引継ぐ権利を持つ相続人を意味し、故人が構成していた家族構成に応じてその数が自動的に決まってきます。
その際、故人が残した遺言の有無や実際に誰が財産を相続するか否かという要素は、法定相続人の数をカウントするのには影響しません。
以下では、民法の規定に基づく法定相続人の出し方についてさらに詳しく解説します。
まず、残された親族のうち、故人に配偶者がいれば、婚姻の届けを出している夫または妻は必ず法定相続人となります。ただし、故人の内縁関係にある方は法定相続人にはなれません。
次に親族のうち、以下の3つのタイプに該当する方がいれば、その方が法定相続人となります。ただし以下のタイプに該当する方は法定相続人になれる優先順位が民法で規定されており、同順位ではないので注意が必要です。
法定相続人になれる順位(1) →(2)→ (3)
(1)故人(被相続人)の子
(2)故人(被相続人)の父母
(3)故人(被相続人)の兄弟姉妹
もし故人に子がいない場合は、次の順位の父母が法定相続人になり、父母がいない場合は兄弟姉妹が法定相続人となるという決まりです。
代襲相続があった場合の法定相続人の出し方
代襲相続とは、世代を超えて、法定相続人が発生するケースのことをいいます。たとえば、故人に子供がいて、故人が死亡する前にすでにその子が死亡していたようなときには、代襲相続という形で孫等、次世代の親族に法定相続人の権利が移転することになります。
一般的な代襲相続のケースとは以下の3つです。
(1)故人(被相続人)の子→被相続人の孫
(2)故人(被相続人)の父母→被相続人の祖父母
(3)故人(被相続人)の兄弟姉妹→兄弟姉妹の子(甥または姪)
ただしこれも(1)→(2)→(3)の順で民法により適用の優先順位が厳格に決められているので注意して下さい。
法定相続人に養子縁組の相続人がいた場合の法定相続人数の出し方
もし故人(被相続人)が生前、養子縁組を行っていたとき、その事実が法定相続人の数に影響を与えるので注意が必要です。民法では相続時、法定相続人の数を計算する際、養子縁組した相続人の数に以下のルールで上限を設定しています。
(1)故人(被相続人)に実子がいたとき…法定相続人になれる養子の数は1名まで
(2)故人(被相続人)に実子がいないとき…法定相続人になれる養子の数は2名まで
法定相続人の誰かが、相続の権利を放棄したときの法定相続人数の出し方
法定相続人の中には、相続時、故人(被相続人)の遺産を引継ぎたくないと相続放棄するケースもあります。相続放棄すれば、その法定相続人は故人の財産だけでなく、債務があればそれも引継がなくて良いメリットもあります。
では相続放棄は、法定相続人の数の出し方にどのように影響するのでしょうか?
結論からいえば一切影響しません。相続放棄の事実に関係なく、民法に基づく元々の法定相続人の数によって基礎控除額が計算される決まりとなっています。
法定相続人に欠格・廃除の方がいた場合の法定相続人の数の出し方
法定相続人に欠格・廃除の方がいたときの数の出し方ですが、結論からいえば、これらの対象者は法定相続人になれず、結果として数にはカウントしません。
ここで欠格とは、法定相続人のうち、遺言などを偽造したり、故人を殺したりして刑に処せられた方のことを指し、この要件に該当する方は自動的に相続人としての権利を失います。
また廃除とは、法定相続人のうち、生前、故人に対して虐待や屈辱行為を行い、その結果、故人が自分の遺志で相続人としての地位を奪った方をいいます。廃除を行う方法としては、故人が裁判所に対して排除請求を申し立て認めてもらう方法と遺言にその旨盛り込む方法があります。
いずれにしても、本人が欠格・廃除のどちらかに該当すれば、相続人としての全ての権利を失うことになります。
ただし欠格または廃除の対象者の子供が地位を代襲相続したときには、その子供は基礎控除を計算する上で法定相続人の数にカウントされるので注意が必要です。
法定相続人数による基礎控除額一覧表
これまでの基礎控除額の計算式、及び法定相続人の出し方を踏まえ、試算して出したのが以下の法定相続人数による基礎控除額の一覧表です。
基礎控除額を出すときの目安にして下さい。
法定相続人の数 | 基礎控除額 |
1名 | 3,600万円 |
2名 | 4,200万円 |
3名 | 4,800万円 |
4名 | 5,400万円 |
5名 | 6000万円 |
相続税の計算方法
相続で法定相続人が決まったとして、いよいよ、遺産額に基づき、各人の具体的な相続税を計算することになります。なお、その税額計算には、以下の「相続税の速算表」及び「法定相続分の主な例(民法規定分)」を使います。
【相続税の税率】平成27年1月1日以後の相続税の速算表
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | – |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
【法定相続分の主な例(民法規定分)】
相続人 | 法定相続分 | |
子がいる場合 | 配偶者 | 2分の1 |
子 | 2分の1(人数分に分ける) | |
子がいない場合 | 配偶者 | 3分の2 |
父母 | 3分の1(人数分に分ける) | |
子も父母もいない場合 | 配偶者 | 4分の3 |
兄弟姉妹 | 4分の1(人数分に分ける) |
事例に基づき各自の相続税額を計算
それでは、上記の各表を参考にして、いよいよ具体的な事例に基づき、相続人各自の相続税額を計算してみましょう。
【STEP1】故人の遺産額を計算する…故人の法定相続人が妻と子供2名の場合
このケースでは、基礎控除額は3,000万円+(600万円×3名)=4,800万円となります。また故人が残した各財産は以下の評価額とします。
- 現金、預金、株式、債権等…9,000万円
- 土地及び建物…3,000万円
- 生命保険(保険会社より振込額5,000万円-500万円×3名)…3,500万円(非課税相当分控除後)
- 債務(借入金)…500万円
- 葬儀代…200万円
上記の事例に基づく正味の相続財産を計算します。ただし相続時精算課税に係る贈与財産や相続開始前3年以内の贈与財産がないと仮定。
【STEP2】課税遺産総額の算出
STEP2 では相続税を支払う際の計算の基本となる課税遺産総額を出します。
【STEP3】相続税の総額計算
STEP3 では、まず法定相続人全体でいくら相続税を支払う必要があるかを計算します。この場合、法定相続人ごとに民法で決められた相続できる割合があります。
(上記の事例の場合)
- 妻…課税遺産総額×1/2
- 子A…課税遺産総額×1/4
- 子B…課税遺産総額×1/4
上記の割合で計算した各自の課税遺産額は以下の通りです。
- 妻…10,000万円×1/2=5,000万円
- 子A…10,000万円×1/4=2,500万円
- 子B…10,000万円×1/4=2,500万円
上記、各自の課税遺産額を相続税の速算表に沿って計算すると、各自の納税額は以下のような結果となります。
- 妻…5,000万円×20%(税率)-200万円(控除額)=800万円(納税額)
- 子A…2,500万円×15%-50万円=325万円
- 子B…2,500万円×15%-50万円=325万円
計算の結果、それぞれの税額を足すと(800万円+325万円+325万円)、合計で1,450万円となり、これが法定相続人全体で税務署に納めなければならない相続税額となります。
【STEP4】各自が実際に遺産を相続した割合に応じた納税額の計算
ただしこれで計算が終わるわけではありません。STEP3までの相続税額の計算は、あくまで民法に基づき、法定相続人全体として納税しなければならない相続税額の計算でした。
しかしSTEP4では、実際に相続人各自が遺産を相続した割合(按分)に基づき、各自が納税しなければならない税額を計算する作業が待っています。
今回、実際の相続が以下の割合で実施されたと仮定します。
- 妻…60%
- 子A…30%
- 子B…10%
上記の相続割合に基づく実際の納税額を計算します。法定相続人全体で税務署に納めなければならない相続税額は1,450万円でした。
すると、実際の各自の必要納税額は以下のようになります。
- 妻…1,450万円×60%=870万円
- 子A…1,450万円×30%=435万円
- 子B…1,450万円×10%=145万円
ただし、今回の事例では、妻が納める予定の相続税については、以下の理由から納める必要がありません。つまり納税額はゼロとなります。なぜなら妻が今回、配偶者の税額軽減措置(配偶者控除)※を活用したからです。
※配偶者の税額軽減措置(配偶者控除)
配偶者が遺産分割で実際に取得した正味遺産額が1億6千円までか、配偶者の法定相続分相当額までであれば、配偶者に相続税は掛からない。なお、配偶者控除を受けるには、必ず相続税の申告書の提出が必要となる。
また、法定相続人で相続税を支払う義務を負う子Aや子Bが以下の要件に該当したときにも、相続税額から以下の割合で計算された税額がさらに控除できる決まりがあります。
※未成年者控除
相続人が満20歳未満の方は、20歳に達するまで年数1年につき、10万円の割合で相続税額から控除できる。
※障害者控除
相続人が障害者の場合は、満85歳に達するまで年数1年につき、10万円の割合で(特別障害者の場合は20万円)相続税額から控除できる。
いずれにしても、上記の各種税額控除で金額を調整した後、最終的に実際の各自の相続税納税額が決まることになります。
まとめ
この記事では、相続税の計算方法について、その計算の元となる基礎控除額の出し方を紹介して、その後、具体的事例を引用しつつ詳しく解説してきました。
相続税に関しては、他にも理解しなければならない項目は多々あります。しかし相続税の計算方法と基礎控除については、この記事を読んでもらえれば一通り理解してもらえると考えています。
この記事を契機に、読者がさらなる相続税の理解に進まれることを期待しています。