【徹底解説】相続税の配偶者控除について

平成27年の法改正によって「相続税の基礎控除が大幅減額されたので、贈与税の特例を利用して相続税を節税しよう」という話題がメディアを賑わしました。

と同時に、50歳を超えた世代から「終活」に励む人が増え始め、相続問題で子供達に迷惑をかけないようにと、税理士や金融機関に相談する人も増え始めました。

しかし、メディアに右往左往されてはいけません。

国税庁の発表よると、平成27年に相続税課税対象になった方は、その年にお亡くなりになった方(被相続人)のうちたった8%でした。

確かに数字だけ見ると、平成26年から27年の課税対象者になった人を比較すると4.4%→8.0%と2倍近くに伸びたのは事実ですから、国にとっては、相続税でかなり大きな増税収入になったには違いありません。

しかし、相続税に関係ない人が92%もいて、関係ない人の方が圧倒的に多いのです。しかも、それらの方々の平均相続財産は1億4,126万円でした。総資産1億4,000万円越の人だけの心配事項だということです。

加えて、「配偶者控除 1億6,000万円」という多額な相続税の控除枠もあります。H27年の平均相続総資産額を上回っています。

つまり、父親が亡くなっても、母親に相続させることで、多額の相続税から逃れることができます。ただし目先の相続税だけ考えていては大変なことになったりすることも?そこで、この記事では、「相続税の配偶者控除」について、注意点も合わせて詳しく解説していきます。

相続税の配偶者控除は1億6,000万円も?

配偶者控除は配偶者の生活保障のための減税処置

配偶者特別控除とは、法定相続分あるいは1億6,000万円を比較して多い方の額となります。つまり、最低でも配偶者の法定相続分(非課税分は除く)は相続税の対象にならないということです。

「長年連れ添った配偶者が亡くなって、相続のために家や老後の生活費を相続税にとられてしまうのは、あまりにも忍びないので、配偶者の相続税は減税しましょう」というのが法律の趣旨です。

配偶者控除はその他相続人を相続税の支払いから守ることもできる

しかし、法定相続分といっても、配偶者の法定相続分は子供がいたら半分、子供がいない場合は、配偶者の親が法定相続人の場合は3分の2、配偶者の兄弟姉妹が法定相続人の場合は4分の3です。

配偶者だけ相続税を減税しても、課税対象者になるほどの財産を残して亡くなった被相続人の相続人達(配偶者を除く)が、相続税支払いのために路頭に迷うこともあります。

配偶者の法定相続分の課税対象額が1億6,000万円未満だった場合は、その額まで配偶者に相続させる事で、他の相続人の相続税を減額することもできます。

他の相続人にとっては、相続税の支払いから免れる代わりに、相続の権利も失うので、いわば相続を放棄するようなものです。家族のような親しい関係でなければ納得しがたい、ということもありますので、一概に「配偶者を守る」と言いきれない側面もあるにはあります。

それはさておき、国税庁はこのように遺された配偶者の生活を守るといった意味での、配偶者控除の上限を上げました。

法定相続分あるいは1億6,000万円のどちらか高い方」と相続税の基礎控除を減額して事実上増税しても、配偶者控除で大丈夫という言い訳のような法律を作ったのです。

さらに、遠からず遺された配偶者を被相続人にした相続が発生する可能性も多いともいえますので、同じ財産に短期間に2回相続税を課すことを避ける意味でも、配偶者控除で大幅減税しておけば、短期間の多数課税を無くす配慮もした、というわけです。

とってもメリットだらけの法律に見えますが、注意も必要です。そこは後で例を挙げて説明しますので、まず先にどういう配偶者控除についての手続き上の注意点を解説していきます。

相続税の配偶者控除は配偶者の基礎控除ではないので申告が必要

配偶者控除の適用には相続税の申告が必須

一般的に、相続税課税対象者となるかどうかは、相続税課税対象額の計算によって導き出します。

相続税の課税対象額 = 相続財産の総額 -(基礎控除額と非課税財産の額)

※詳しい計算方法は次項で解説

基礎控除額等(基礎控除額+非課税財産額)未満の相続財産の場合は、「課税対象額< 0」となって相続税0となり、相続税の申告をしなくて良いことになっています。

相続税の課税対象額が0なのですから、「相続税課税対象から外される」ということです。しかし、「配偶者控除」は相続税課税対象者の課税対象額に特別な配慮をして減額するものです。つまり、配偶者控除を受けることができる人は、相続税の課税対象者であることが条件なのです。

ですから、によって相続税を支払う必要がなくなる場合も、課税対象者として相続税の申告をしなければなりません。その相続税の申告書で「配偶者控除で相続税はゼロです」と主張しなければならないということなのです。

配偶者控除で相続税がゼロだからといって、相続税の申告をしないでいると、最悪の場合、相続の脱税者として配偶者控除どころか課税徴収されてしまうこともあるので注意しましょう。

相続税の配偶者控除適用に申告が必要な理由

配偶者控除は、本来なら基礎控除額を上回る課税対象となるべき人が、特例として課税対象から外されるのです。だから、相続税の申告をして、「配偶者控除を適用するので課税対象者の枠から除外してください」と申請しなければならないのです。

あくまで、税法上の配偶者の生活を守る温情的な処遇のようなものなので、相続税の申告は、相続税課税対象者の中で、相続税を払っていない人(脱税者)の名簿から除外してもらうための申告のようなものです。

それに、税法上の温情処置のような制度なのですから、相続税の申告の法律手続きに関して法違反をしていないことが前提です。

相続人が相続の順位を上げるための何らかの罪を犯したら相続の欠格事由となるように、配偶者控除の適用者が相続税に関する法律違反をしたらその権利を失うということです。

配偶者控除の適用者が相続税に関する法律違反といっても、真面目に正直に申告していたら、何の問題もありません。間違ったら修正申告も可能です。

気をつけるべきは、相続税の申告期限を守る等の手続き的な法遵守と、虚偽申告等が代表的です。「脱税」と国税に誤解されない限り、配偶者控除適用除外にされるような心配はいりません。

相続申告期限の延長は原則不可能

しかし、様々な事情で相続協議が長引き申告期限を過ぎてしまうこともあります。それでも、相続税の申告期限は原則延長不可です。

相続人の異動等複雑な事情が発生してしまった場合、裁判や調停問題に発展した場合等、例外が適用されることもありますが、「延長不可」と思って協議を進めましょう。

相続協議が揉めそうなときは、初めから税理士等の税の専門家を交えて、取り敢えず申告期限まで申告書を提出するのがお勧めです。

協議によって変更が生じた場合は、後から修正申告も可能ですが、相続人の間で立て替え等処理をすることの方がスムーズです。その方法は、後から揉めないように、専門家(弁護士や税理士等)を交えて相談するのがお勧めです。

一方、もしも申告期限を1日でも過ぎると、減税の様々な特例が利用できなくなるだけでなく、追徴税も取られてしまうような大きなデメリットが課せられてしまいます

配偶者控除を適用するための計算の仕方

全体の課税対象額を算出しましょう

基礎控除とは、以下の計算式で算出されます。

基礎控除額=600万円×○人(法定相続人の人数)+3,000万円

非課税財産とは、死亡保険金等のことです。

非課税財産=500万円×○人(法定相続人の人数)

不動産の場合は、不動産業者等の市場価格ではなく、一般的に土地は路線価を利用して算出します。国税庁の土地の固定資産税は路線価を利用していますので、たてものも含めて相続税の不動産価値としての金額は、固定資産税の徴収票に載っている価額を参考にしましょう。

(ちなみに、相続争いの裁判の場合は不動産鑑定士の査定額を参考にします。これは、相続の損得問題ですから、資産額の査定の趣旨が異なりますので、相続税とは別ものだと考えておきましょう。)

また、小規模宅地等の特例等の特例の算出方法がありますが、ここでは解説を省きます。

課税対象額の計算例

石田家の法定相続分で相続した場合

例えば、明治時代から和菓子屋を営む石田さん一家を例に挙げて解説します。

父親が亡くなって、残された法定相続人は母親と子供3人です。家族全員で和菓子屋を営んでいましたので、父が亡き後は、母が店を引き継ぎ、母を家族全員で支えることとしました。

そのため、遺言書は無かったけれど、父親の死亡保険金全額と店と自宅、その他不動産の名義を母親に、そして預貯金は遺された家族4人で等分割しました。不動産等の評価額を含め、遺産は下記表の通りです。

財  産金  額
住居兼和菓子屋店舗80坪2億400万円
駐車場や賃貸不動産100坪1億3,000円
預貯金8,000万円
死亡保険金2,000万円
総資産(非課税財産)4億3,400万円

課税対象額を算出してみます。

  • 基礎控除額=600万円×4人+3,000万円=5,400万円
  • 非課税財産=500万円×4人=2,000万円
  • 石田家の課税対象額43,400万円-7,400万円=36,000万円

■相続税計算式

相続税=課税対象財産額×法定相続分割合×相続税税率-控除額

※相続税税率と控除額は相続財産額によって異なります(下表参照)

引用先:No.4155 相続税の税率|国税庁(R2.4.1現法令等)

<法定相続分で相続した場合の相続税>

■母親 (法定相続分2分の1)

3億6,000万円×2分の1-1億8,000万円(法定相続分)=0

(法定相続分の課税対象額と1億6,000万円どちらか高い方の金額が控除される)

■子 (法定相続分6分の1)

3億6,000万円×6分の1×30%-700万円=1,100万円

相続税総額 1,100万円×3=3,300万円

母親が受け取る死亡保険金も全て均等に分けたと考えると、母親の相続税はゼロですが、子供達には1,100万円ずつの相続税が課せられます。しかし、預貯金が金等に分けられたとすると、預貯金2,000万円から相続税は支払うことができますが、不動産の分け方で話し合いが必要となります。

不動産価値が高いので、分割するには共同名義にするか、売却してお金に換えるか協議が必要です。家族で和菓子屋を経営してきたので、売却は現実的ではないかもしれません。

石田家の協議によって相続した場合

父親亡き後家族3人で和菓子屋をもり立てていくので、住居兼店舗の名義を母親に、その他不動産は子供達で分け、預貯金は4人で等分割、そして母親が受け取り人になった父親の死亡保険金は母親がそのまま受け取ることにしました(下表参照)。

■相続税計算式

相続税=(相続財産額×課税対象割合)×相続税税率-控除額

法定相続分取りの均等割りの場合は、相続財産の総額から算出した課税対象額から、相続分の按分計算で良いが、法定相続を無視した場合は、相続財産額の課税対象を算出する必要がある。

相続した財産の課税対象額は、相続財産総額×課税対象割合によって算出します。ただし、課税対象割合=課税対象額/総資産(非課税財産含む)。

石田家の課税対象割合=3億6,000万円/4億1,400万円=約87%

(2,000万円までは非課税なので、死亡保険金含まない)

相続人相続財産相続金額相続税
母親・住居兼店舗2億400万円

・預貯金2,000万円

・死亡保険金2,000万円(非課税)

2億4,400万円

(課税対象額=

1億9,488万円)

税率40%

控除額1,700万円

税:6,095万2,000円

⇒配偶者控除1,488万円

子1・駐車場6,500万円

・預貯金3,000万円

9,500万円

(課税対象額=8,265万円)

税率30%

控除額700万円

税:1779万5000円

子2・その他不動産3,250万円

・預貯金1,500万円

4,750万円

(課税対象額=4,132.5万円)

税率20%

控除額200万円

税:626万5000円

子3・その他不動産3,250万円

・預貯金1,500万円

4750万円

(課税対象額=4,132.5万円)

税率20%

控除額200万円

税:626万5000円

課税対象額/総資産=約87%3,267万5,000
協議による遺産相続を上の表のように行った場合、相続税は32,675,000円<33,000,000

協議の方が相続税は少しだけ節税できます。相続税は母親にも発生するものの、預貯金や死亡保険金、計4,000万円の現金を相続しているので、相続税の支払いには困りません。子供達も同様です。

石田家の場合、法定相続と協議相続のどちらが将来的に節税となるか

石田家の場合、和菓子屋を家族総出でもり立ててきたのですから、父親が死んでも、亡き父の想いを継いで和菓子屋をそのまま遺すでしょう。

法定相続分割の場合は、店舗兼住居は遺された相続人4人の共同名義にすると店舗兼住居はそのまま遺すことができます。二次相続のことを考えても、兄弟の結束が強くて店を遺す方向で相続するつもりなら、母親が亡くなったときに店舗兼住居の名義をどうするか話し合えば良いことです。

その方が、母親の相続財産が少なく、相続税が節税できます。

しかし、長期にわたる不動産の共同名義は、相続関係を複雑にするので二次相続のときにさらに共同名義を継続するのはお勧めできません。

一方、一番大きな相続財産の店舗兼住居を母親の名義にしても、その他の不動産が大きいので、ほんの少しの減税にしかなりません。ほんの少しの節税(325,000円)なら、共同名義の方が、二次相続のとき大きな減税となりお勧めです。

でも、母親の名義にした以上、母親の目の黒いうちの店舗兼住居は安泰ということです。

ただし、この案は兄弟がずっと力を合わせて店を守っていく状況が母親の相続のときまで続くことが前提の案です。

一方、協議の方の場合の二次相続(母親が亡くなって、その相続)のときに母親の財産は、そのまま兄弟3人で相続することになります。もう配偶者控除のような大きな減税(1億8,000万円)は適応できません。

上の表からすると、母親の相続した財産を普通に計算すると、「相続税:6,095万2,000円」となります。この計算は2,000万円の預貯金も含みますが。

こんな大きな相続税を後から支払うことになる覚悟が必要です。

将来的にどちらが節税となるかは、相続人の想いや人間関係、その他様々な状況が絡み合ってくるので、数字だけ見て一概に配偶者控除がお得な節税だとはいえないことを忘れてはいけないのです。

【まとめ】配偶者控除をするとき覚えておくべきこと

配偶者控除は、メリットばかりではない

先述したように、目先の子供の相続税のことばかり考えて遺された親が自分に相続を集めた場合、数年後に自分の相続が発生したときに、基礎控除の額が減額されて、相続税が実質上がっているのですから、却って子供の相続税が莫大な金額になってしまうことにもなりかねません。

そのため、二次相続の時の相続税の計算を仮にしてみて、じっくりと検討してみる必要があります。

また、相続税の配偶者控除制度は、配偶者の相続税を特別に減額してくれる温情制度なのですから、きちんと法律を守って、正しく納税していなければなりません。

そのために、相続税の申告期限(被相続人が亡くなってから10ヶ月以内)に間に合うように分割協議をまとめて、しっかりと正しく申告する必要があります。少しでも不正が見つかった場合、配偶者控除の権利が失われてしまいます。

また、役所の温情的手続きなのですから、相続人の身分関係の証明には、役所の届け出のみが参考にされます。

つまり、配偶者である事の証明は戸籍のみで行われますので、内縁関係の配偶者では、相続の配偶者控除を適用することはできません。社会保険は内縁関係でも「配偶者」として扶養関係を認められますが、適用法律が異なるので注意してください。

 

法定相続人の身分を決めるのは被相続人が亡くなった時の戸籍のみ

もしも、相続の節税を考える時期の年齢でいらっしゃる方で、内縁関係の配偶者がいる場合は、配偶者控除のことも検討しながら、相続のことを考えてみてください。

配偶者控除の該当者の相続人は、「戸籍上の配偶者」であり、その期間は問われていません。極端な話、亡くなる前日に籍を入れたばかりでも該当します。

しかし、内縁関係の配偶者を籍に入れることは、相続順位が異動するので、自分が死んだ後の相続トラブルのことも含めて検討が必要です。

なお、遺産相続の協議の最中に配偶者も亡くなってしまった場合も、配偶者控除を受けることができます。その際は数次相続となり、分割協議書が複雑になりますので、専門家に相談することをお勧めします。

専門家に相談しよう

遺言書の無い相続分割協議のとき、節税を考えるなら、それは目先のことだけでなく、将来的なことまで考えて協議しなければなりませんので、専門家のアドバイスを参考にして、じっくりと協議することをお勧めします。

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