相続人同士が遺産分割を巡ってもめてしまうのが「争続」問題。仲の良い親族に思えても、いざとなると自分の相続分が不公平に感じ、揉め事に発展してしまうことは、実は珍しいことではありません。
「争続」は、財産に不動産が含まれているときに特に起こりやすいと言われています。それはなぜなのか、またどうすれば対策できるのかなどを解説します。
不動産の相続が争続になってしまうのはなぜ?
不動産を含む相続は争続になってしまうリスクが高いとされています。なぜなら、不動産は分割しにくい財産だからです。相続とは、ある人が亡くなったとき、その財産を相続人で分け合って受け継ぐことをいいます。
現金であれば分け合うことは簡単ですが、不動産は単純に分けることができません。そのため、面倒な手続きが必要だったり、不公平が生じてしまうことも。不動産の争続リスクについて理解するために、不動産相続のポイントを整理してお伝えしましょう。
相続の基本
まず、相続の基本をおさらいしておきましょう。人が亡くなると、その人(=被相続人)の財産は相続財産として、相続人に受け継がれます。相続人は被相続人が亡くなってから10ヵ月以内に、遺産分割協議を行い、誰がどの財産を相続するかを決定したうえで、相続税の申告などを行わなければならないと決められています。
遺産分割は、被相続人が生前に遺言を残して指定することもできますが、遺言がない場合は、相続人間で協議して決めなくてはなりません。
基本的には法定相続分という分け方の指針が、法律で定められているので、これに従うのが一般的ですが、相続人の合意が得られない場合もありえます。遺言があったとしても、相続人間の合意のほうが優先されるため、遺産の分割の仕方で遺族がもめるリスクは常にあると言えます。
法定相続分は、誰が相続人であるかによって異なります。
配偶者と子がいる場合 | 配偶者1/2・子1/2 |
配偶者と直系尊属(父母または祖父母)がいる(子はいない)場合 | 配偶者2/3・直系尊属1/3 |
配偶者と兄弟姉妹がいる(子・直系尊属はいない)場合 | 配偶者3/4・直系尊属1/4 |
不動産はどうやって分割する?
遺産分割の対象になるのは、お金に見積もることのできる財産すべてです。現金・預貯金であれば、そのまま分けられるので良いのですが、それ以外の財産は、お金に換えないとそのまま分けることが難しいものもあります。
そのような場合、どうすればいいか、例で見ていきましょう。
Aさんが亡くなり、その1億円相当の自宅を相続することになりました。Aさんには配偶者も子供もなく、両親も他界していて親族は兄Bさんと妹Cさんだけです。
この2人の兄弟姉妹が、Aさんの相続人です。今回は、1億円の自宅を兄妹それぞれが1/2(5,000万円)ずつ相続するものとして考えます。
・換価分割
換価分割とは、財産を現金に換えて分割するという方法です。
この場合、Aさんの自宅を売却し、そのお金をBさん・Cさんで均等に分けます。
・代償分割
代償分割とは、ひとりの相続人が現物をすべて相続し、ほかの相続人の相続分に相当するお金を支払うという方法です。
この場合、BさんがAさんの自宅を相続します。すると、Bさん一人が1億円を相続したことになるので、BさんからCさんに対して、Cさんの相続分に相当する5,000万円を支払います。
・共有名義にする
不動産を分割せず、相続人の共有名義にして、両人が相続することもできます。
この場合は、Aさん自宅がBさんとCさんそれぞれが1/2ずつ持分を持つ共有名義の不動産になります(持分は均等でなくてもよく、協議で決めることができます)。
不動産の相続が争続になる理由
さて、述べたような方法で不動産を相続すると、何が問題になってくるのでしょうか。
換価分割がもっともシンプルな方法です。しかし、家を売却することになりますので、相続人がそれを望まない場合は使えません。先の例で言えば、Aさんの自宅がもともとAさんたちの実家であったなら、相続人Bさん・Cさんにとっても思い出のある家であり、売ってしまうのはイヤだという話になるかもしれません。
すると、代償分割か、共有名義になるのですが……。
・代償分割の資金がない
代償分割は、現物を取得した人が他の相続人に、相続分に相当するお金を払わなくてはなりません。先の例では5,000万円が必要で、このお金を用立てられない、という問題が考えられます。
・共有名義はその後の管理が面倒に
共有名義は、不動産の権利関係が複雑になるというデメリットがあります。単独名義でないと、不動産の管理や処分が一人では行えず、共有名義人の同意が必要な場合があるからです。
先の例のように兄弟姉妹が共有するならまだしも、配偶者と直系尊属(配偶者から見て舅・姑です)と共有になってしまい、配偶者は家に住み続けている……という状況などでは、お互いに、家を自由にできないという不満が募る可能性があります。
遺言を残しても争続は回避できない?
揉めることのないように、あらかじめ遺言で相続分を指定すればどうでしょうか。
確かに、遺言を残せば、遺産分割について本人の意思表示を行うことができます。しかし、遺産分割協議では、遺言があったとしても協議による合意のほうが優先されます。逆に言えば、遺言に強制力がないため「揉めるときは揉める」としか言いようがないのです。
法定相続人のうち配偶者・子・直系尊属には、「遺留分」と呼ばれる最低限の相続をする権利があります。遺留分に満たない相続しかできなかった場合は、遺留分侵害額請求という手続きで、足りない額を他の相続人に請求できます。
遺留分は、相続人が直系尊属だけの場合は相続財産の1/3、それ以外の場合は相続財産の1/2相当です。
例で見てみましょう。
Dさんが亡くなり、相続が開始しました。Dさんには配偶者Eさんがいますが子どもがなく、母親Fさんが存命です(父はすでに他界)。EさんとFさんが法定相続人になり、相続分はEさん2/3・Fさん1/3です。
Dさんには6,000万円相当の財産がありましたが、遺言で、「すべてEさんに相続させる」としていました。遺言どおりにするなら、Eさんだけが6,000万円を全額相続します。Fさんがそれに納得すればいいのですが……そうでない場合、Fさんは遺留分を請求するかもしれません。
この場合、遺留分は1/2相当ですから、
相続財産6,000万円×遺留分1/2×Fさんの相続分1/3=1,000万円
となり、Eさんに対して、1,000万円を請求することが可能です。
争続にならないための対策は?
不動産が含まれる相続は、不動産が分割しにくいため相続がやりにくく、結果として揉め事に発展する可能性があるとをお伝えしました。
それでは、これを防ぐ方法について考えてみたいと思います。
不動産が含まれる相続財産をスムーズに分割し、揉めずに相続するための対策をご紹介しましょう。
まずは相続人の意思確認と遺言の準備を
「遺言があっても揉めるときは揉める」とお伝えしました。それはそうなのですが、だとしてもやはり遺言はあったほうが良いと言えます。
遺言は被相続人の意思表示です。被相続人の意思がわからないことが揉め事の原因になることもありますので、自分としてはどのように相続をしてほしいか、はっきりと残しておくべきです。
合わせて、相続人となる人たちの意思についても、生前に確認しておくことが望ましいでしょう。法定相続分とは違う分け方を望む場合や、家があるならそれをどうしたいかなど、あらかじめわかっていれば、それを遺言に盛り込むことができます。
この段階で相続人全員の考えがわかり、合意ができそうなら、もはや争続問題は解決したも同然です。まずは親族間のコミュニケーションがカギです。
生命保険を活用する
具体的にとれる相続対策として代表的なものが生命保険を活用することでしょう。
生前に、相続人を受取人、被相続人を被保険者とする保険に加入しておきます。
死亡保険金は「みなし相続財産」といって、相続税等を計算するための相続財産の一部ではありますが、遺産分割の対象には含まれません。
そのため、保険は受取人として指定された人にお金を確実に渡すことができるのです。この性質を利用して不動産の相続をスムーズに行うことも可能です。
先に例として挙げた、Aさんとその子どもBさん・Cさんのケースで考えてみましょう。
Aさんの相続財産が自宅不動産1億円相当のみの場合、Bさんが自宅をすべて相続したら、代償分割として、Cさんに5,000万円を支払います(Bさん・Cさんの相続分を各1/2として相続したい場合)。
このケースで、Aさんが生前に自身を被保険者とし、Bさんを受取人とする生命保険を契約していたらどうでしょう。Bさんは代償分割の資金を、保険金で用立てることができます。
また、Aさんは生前、支払った保険料額に応じて所得控除が受けられ、所得税・住民税の節税ができるほか、Bさんが受け取った保険金のうち一定額までは相続税も課されないというメリットもあります。
しかし、そもそも保険料が必要であるという点で、事前にお金が用意できなければ使えず、資産が不動産しかない場合などは難しいでしょう。
事前に不動産を売却しておく
不動産の相続が難しいなら「生前に売却して手放しておく」ことも選択肢のひとつです。
あらかじめ不動産を現金化しておけば、不動産の分割で揉めたり困ったりすることはなくなります。特に、不動産以外に相続できる現預金が少ない場合は確実な対策でしょう。
相続後に換価分割のためや、相続税納税のために、結局は相続人が家を売ることになるのなら、事前に売却しておくことで、相続人に手間をかけさせずに済むというメリットもあります。
さらには売却代金を、生前贈与という形で分割しておけば、遺産分割について憂いなく、すべてを見届けからエンディングに臨めるでしょう。
注意点としては、売却時出た利益は譲渡所得として課税されるということが一点。
あとは、不動産と現金は同じ額であっても、相続においては不動産の価額のほうが低く評価される制度や特例があるため、相続税額は不動産として相続したほうが良い場合があることが挙げられます。
しかし、相続税は誰もが課されるわけではなく、相続財産が「3,000万円+法定相続人の数×600万円」の基礎控除以下であれば課されません。以上を踏まえて、次のいずれかにあてはまる場合は事前の売却は有効な対策と言えます。
- 不動産以外に相続できる現預金が少ない場合
- 不動産の分割でもめることが予想できる場合
- 相続税が課されないか、さほど多くない場合
まとめ
事前の不動産売却は「争続」回避に有効な対策であることをお伝えしました。
不動産が相続財産に含まれていると、分割しにくいために、相続人間での揉め事・トラブルにつながるリスクが上昇します。
相続人の意思確認を行い遺言を準備すること、代償分割の資金を生命保険で用意するなど、さまざまな対策が考えられますが、そのひとつとして事前に不動産を売却しておくという方法があります。分割に困ることがありませんので不動産以外の資産が少ない場合などに有効な方法です。